生きる5題+

□安心する
2ページ/7ページ

「・・・・・・」
「そんなこと、できませんってば」
栗田と十文字が辺りをつけてきたのは、校舎の裏手だった。
今は部室や倉庫などがいくつか並んでいるが、人気はない。
セナの声は先程よりよく聞こえる。

「・・・・・・」
「そんな、止めてください!」
今度はさらに大きく、はっきりと聞こえた。
ボソボソと喋る声はよく聞き取れないが、大きな声で拒絶している声はセナのものだ。
一番奥の体育用具が置かれている倉庫だ。
2人はその部屋の前に近づくと、中からバタバタと何かが倒れる大きな音がした。

「おい、何やってる!」
十文字が中に向かってそう怒鳴ると、扉に手をかけて開けようとする。
だが中から鍵がかかっているようで、扉にガタガタと揺れるものの開かない。

「うるせぇ!喋ってるだけだ。邪魔すんな、どっか行け!」
セナでない方の声がこちらに向かって怒鳴った。
十文字がさらに扉をゆすったが、やはり開かない。

「だからアメフト部に入ってやるから、ヒル魔に伝えろって言ってんだろ?」
「俺らもクリスマスボウル行きたいんだけど、入部テストで落とされちゃったんだ。」
「アイシールド21が頼んでくれたら、ヒル魔も断んないだろ?」
「主務でもあるんだしねぇ、セナくんは」

どうやらセナの他に中にいるのは2人のようだ。
入部テストで落とされたものの、最近脚光を浴びているアメフト部に入りたいらしい。
だから部員の中では一番気が弱そうなセナを捕まえて、詰め寄ってるということなのだろう。

「もしもし、ヒル魔?」
栗田は携帯電話を取り出して、部室にいるであろうヒル魔を呼びだした。
そして事情を説明して、すぐ来てくれるようにと頼む。
ヒル魔ならば、この扉を開ける一番いい方法を思いついてくれるはずだ

「そうやって、なんでもヒル魔任せだよな」
十文字の冷やかな呟きが、ポツリと落ちた。
それが栗田に発せられたものなのか、十文字自身へのものなのか。

だが栗田の心には、小さな棘のように突き刺さった。
セナを助けるには、ヒル魔の手を借りるのが一番確実な手段だ。
わかっているのに、ヒル魔の手を借りたくないという気持ちもあるのだ。
このもどかしい気持ちは、いったい何だろう。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ