消滅3題

□私なんてイラナイ
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「ひよ!無事でよかった!心配したぞ!」
「横澤のお兄ちゃんも!すごい荷物だね。」
部屋に現れた横澤に、日和は声を上げた。
横澤は両手に大きな荷物を抱えた上に、背中にも大きなリュックサックを背負っていた。

「何だ、その荷物。お泊りセットか?」
桐嶋がやはり大荷物の横澤を見て、的外れな感想を言う。
だが横澤は「アホか!」と怒鳴った。
桐嶋がいつも冗談っぽく横澤をからかい、横澤は怒ったように応じることはよくあることだ。
だが日和には、今の怒鳴り声は本気で怒っているように見えた。

「とりあえずできるだけ食い物を手に入れてきた。もうコンビニには何もないぞ。」
「え?そうなのか?」
横澤の大荷物は食糧だったのだ。
よく見ると横澤の服はヨレヨレだし、髪も乱れている。
きっと食料を確保するのは、かなり大変だったのだろう。
呑気に「お泊りセット」なんて茶化されたら、腹が立つに決まっている。

「車にまだ積んであるんだ。運ぶのを手伝ってくれ。」
「後でいいだろう?」
「いや。外では強盗や略奪が始まっている。車だと盗られちまう。」
「わかった。ひよは危ないから部屋にいろよ。」

日和は「はーい」と答えて、手を振って2人を見送った。
だが短い間だとはわかっていても不安で、ソラ太を抱き上げる。
そしてすぐに窓側に向かい、外を見下ろした。
程なくして、桐嶋と横澤がエントランスから出てくるのが見えた。

2人は何か話しながら、歩いていく。
どうやらマンション駐車場の隅にあるのが、横澤の車のようだ。
本来は住民しか使えないのだが、今は非常事態だ。

「え?」
じっと2人の後姿を見ていた日和は、思わず小さく声を上げた。
桐嶋が不意に、隣を歩く横澤の頬にキスをしたように見えたのだ
気のせいかと思ったが、そうではなかった。
次の瞬間、桐嶋は横澤の身体を引き寄せて、抱きしめたからだ。

実は2人がそういう関係ではないかと想像したことはある。
2人の関係は、友人とか会社の同僚というには親密すぎると思ったのだ。
それにまだ恋を知らない日和にも、2人が醸し出す雰囲気の甘さは伝わっていた。

「本当は私なんてイラナイ。2人でいたいんじゃないの?」
日和は腕に抱くソラ太の身体に額を当てながら、そっと呟いた。
ソラ太はそんな日和を慰めるように短く「にゃあ」と泣いた。

【続く】第2話「全部消えてしまえばいい」に続きます。
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