消滅3題

□だから私が消える
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「パパの分もあるから。ごゆっくり!」
横澤は意味あり気に手を振る日和を見て、悟った。
日和は桐嶋と自分の関係を理解し、受け入れたのだ。

眠っている間、横澤は夢を見ていた。
熱に浮かされていたせいか、はっきりとは覚えていない。
だが登場人物については鮮明に記憶している。
仏壇の写真でしか知らない、日和と面差しのよく似た女性。
桐嶋の妻、桜だった。

「・・・だから、私が消える。」
彼女は夢の中でそう告げていた。
だが肝心な「・・・」の部分が、不鮮明だ。
横澤が桐嶋を盗ったから。
それ以外に当てはまる言葉を思いつかない。
だが地球が滅亡するという事実の前では、それすらもう関係ないことだ。
桜だけでなく、桐嶋も横澤も日和も、みんな消えてしまうのだから。

「ひよに俺たちのことを話したのか?」
「特に話してない。でも察したみたいだ。」
日和特製の雑炊をありがたく平らげた後、横澤と桐嶋は茶をすすっていた。
大きな土鍋は綺麗に空になっている。

「喜んでくれるのか」
横澤は空の湯呑を盆に戻しながら、俯く。
日和が、そして桜が祝福してくれるのか。
まったく自信がない。

「喜んでいるかどうかなんてわからない。だけど受け入れてもらうしかない。」
「あんた、そんな押しつけがましいことを」
「そうだろう?俺たちが一緒に最期の時を迎えるのは、決定事項なんだから。」

なるほど。それが答えか。
その言葉はまるで天啓のように、横澤の心に落ちた。
先程から考えていた夢に、ようやく納得のいく説明を見つかった。
桐嶋と横澤はずっと一緒にいる。だから私は消える、だ。
横澤の心の中心から高野が消えたように、桐嶋からも桜が消える。
決して忘れるわけではなく、思い出の中に埋めるのだ。
願わくば「安心して消える」であって欲しい。

「お前はもう少し寝ておけ。」
桐嶋がそう言い置いて、空いた食器の片づけを始めた。
ドアを開けて、土鍋や茶碗をキッチンへと運んでいく。
開いたドアの隙間から、ソラ太がガツガツと食事をしているのが見えた。
やはりいつものお気に入りのキャットフードがいいらしい。
どうやら死にそうな目に合ったのは、無駄ではなかったようだ。

残された時間はあとわずか。
だが思いのほか、穏やかに過ごせそうだ。
横澤はベットに身体を沈めると、静かに目を閉じた。

【END】お付き合いいただき、ありがとうございました。
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