「図書館戦争」×「世界一初恋」

□第1話「気に入られてる?」
3ページ/6ページ

「ありがとうございました。」
男性利用者の貸出処理をした郁は、助けてくれた青年のところに戻り、頭を下げる。
青年は「いいえ。ちょっとお節介だったかも」と苦笑した。

「本、お好きなんですか?」
「好きですよ。図書館も子供の頃からよく利用者させていただいています。」
「だから詳しいんですね。」
「でもさっきの本は俺が担当した本なんです。売り込みしちゃいました。」
「担当?」
「俺、出版社で編集やってるんです。」

青年が悪戯っぽく笑うと、ポケットから名刺入れを取り出し、1枚抜き取って郁に渡した。
小野寺出版 文芸編集部 小野寺律。
名刺にはそう書かれている。
郁は名刺を受け取ると「笠原郁です」と頭を下げた。

「笠原、何してる!」
話し込んでいる2人に気付いた堂上が、駆け付けてきた。
仕事中に利用者と話し込んでしまったことが、サボりと見なされたと思ったのか。
郁は首を縮めると「すみません!」と叫ぶ。
だが堂上はそれをスルーして、青年に向き直った。

「こんにちは。堂上さん」
「律さん、部下が失礼を」
「いえ、失礼なんて何もないですよ。」
「堂上教官、こちらの方は」
「こちらは小野寺出版の社長の息子さんだ。」

堂上とも顔見知りのこの青年は、ここでは有名人なのだ。
この近くに住んでおり、幼少期からこの武蔵野第一図書館を利用している。
つまり大抵の図書館員より、ここには詳しいのだ。
実は堂上も秘かに、本の知識では彼には叶わないと思っていた。
ちなみに小野寺出版の社長の御曹司であり、この美貌である。
図書館員たちは彼に一目置いているし、狙っている女子業務部員は多い。

「子供の頃から利用されていて、出版社の社長の息子さんなら、そりゃあたしなんかより詳しいはずですよね〜」
郁が悔し気に呻くと、青年はポカンとした表情になる。
だが次の瞬間、弾かれたように笑い出した。
その姿は、郁の直属のすぐ上戸に入る上司を連想させる。
何が青年の笑いのツボだったのかわからず、郁は救いを求めるように堂上を見た。
だが堂上にもわからず、郁と同じように呆然とした顔になる。
すぐに場を引き締めるように咳払いを1つして「利用者にレファレンスを頼んだりするな」と告げた。

郁は不満そうな表情で、堂上を見た。
別に頼んだわけではないのだ。
だが結果的にはやってもらった形なので、何も言えないのだろう。

「すみません。俺が勝手にしたことです。笠原さんを怒らないで下さい。」
青年は涼やかに笑うと「それじゃまた」と告げて、歩き出した。
郁は「はい、また!」と元気よく答えて、堂上に向き直る。

「サボったつもりはないですが、とりあえずすみません!」
郁は勢いよく、頭を下げる。
その声の大きさに驚いたのか、青年は思わず足を止めて振り返った。
そして郁に視線を送るとクスリと笑い、また歩き出す。
堂上は何となく割り切れない気分のまま、その後ろ姿を見送った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ