「図書館戦争」×「世界一初恋」

□第2話「笠原作戦」
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「いい気にならないで」
「特殊部隊だけでなく、律さんにまで取り入ったのね?」
「女の武器を使ったのかしら?」
「本当に図々しいったら、ないわね」
「山猿のくせに、勘違いしてるんじゃない?」
「何とか言いなさいよ!」

無駄に派手なメイクの女たちが、1人の若い女性を取り囲んで、罵声を浴びせている。
実は律がこんな光景を見るのは、初めてではない。
図書館員はやはり女性が多い。
その中には「かわいい」とか「仕事ができる」とか普通なら褒められることを、集団で貶める者たちが存在する。

いつもの律なら、放っておく。
残念ながらこれは「よくある光景」だからだ。
こんなことで辞めてしまう者は、図書隊ではやっていけない。
泣くなり、戦うなりして、1人で乗り越えなければいけないのだ。

だが今回は違った。
咎め立てる女たちは、律の名前を使った。
そしてやられているのは、あの笠原郁だったのだ。

「じゃあどうして律さんは、あんただけ特別扱いなのよ!」
「あんたのときだけ、レファレンスを助けたりしてるじゃない!」
「あたし、この前お願いしたのに、拒否されたのよ?」
「挨拶だって、あんただけ違うじゃないの!」

女たちの勝手な言い分を聞きながら、律は呆れた。
レファレンスを助けたとか、お願いしたのにとか。
仕事を何だと思ってるのか。
いや、今さらだ。
彼女たちが図書館員の仕事に誠実に向き合っていないことなんて、かなり前から知っていたし。
ここまで来ると、もう腹も立たない。

「いろいろ言いたいことはあるんだけど、まずこういうやり方はよくないよ。」
「大勢で1人を取り囲むようなやり方だよ。まるでヤクザかヤンキーじゃない。図書館の品位を下げる行為だよ。」
「しかも君たち全員、彼女の先輩でしょう?そもそもパワハラじゃないの?」

律はやんわりとそう告げて、ここで終わりにするつもりだった。
ここまではっきりと文句を言ったことで、牽制になるはずだ。
こんなとき、小野寺出版社長令息の身分は役に立つ。
勝手に律の後ろに権力の影を見て、大抵の人間は引き下がる。
七光りだなんだと揶揄されて、プラマイで言えばマイナスだと思っている自分の生い立ち。
使えると思った場面では、有効活用したってバチは当たらないだろう。だが。

「いったい何事だ、これは!?」
女たちは意気消沈し、律的にはこれで終わりと思っていたところに駆け込んできたのは堂上だった。
少し遅れて小牧と手塚、さらに遅れて柴崎だ。
説明も面倒だし、このまま消えようと身を翻しかけた律は、堂上の目を見て動きを止めた。
バカな女たちには、別に説明なんかしてやる義理はない。
だけど堂上たちには、どうやらそれでは通じなさそうだ。

「何か大事になってるなぁ」
「確かにそうですね」
律のため息まじりの独り言に、郁がのほほんと応じてくる。
君のためにこんなことになっているんだよと、律はもう1度深いため息をついた。
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