「図書館戦争」×「世界一初恋」

□第2話「笠原作戦」
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「いったい何事だ、これは!?」
堂上は、女性業務部員たちの輪の中へ飛び込んだ。
そこにはポカンと間抜けな顔をした郁と、しまったという顔をした律がいた。

笠原が律さんのことで、女性業務部員数名にからまれています。
特殊部隊事務所で、デスクワークをしていた堂上はそんなメールを受け取った。
差出人は郁のルームメイトにして、業務部の魔女、柴崎だ。
今日は堂上と小牧はデスクワークで書類の片づけ、郁と手塚は館内業務の手伝いに行かせている。
おそらくそこで1人になったところを狙われたのだろう。

堂上は事務所を飛び出して、図書館へと向かう。
するとなぜか小牧もついて来た。
何でお前も来るんだと言いたかったが、振り切るのも面倒だ。
図書館に飛び込み、待ちかまえていたらしい柴崎に「どこだ!?」と聞く。
柴崎が「あちらです」と示した女子業務部員たちの方に向かう。
するとなぜか柴崎と手塚までついて来ていた。

「何か大事になってるなぁ」
律が困ったような顔で見ているのは、なぜか堂上だ。
どうやら間が悪いところに飛び込んでしまったらしいが、今さらどうにもならない。
何しろ郁が不当な目に合っていると思っただけで、頭に血が上ったのだ。
間とかタイミングを考える余裕などなかった。

「この際、誤解がないように言っておきます。」
律は表情を引き締めると、ここにいる全員を見回した。
美人が凄むと、迫力が違う。
堂上たちも、女性業務部員たちも、騒ぎを聞きつけた他の野次馬たちも息を飲んだ。

「俺、笠原さんを特別扱いしたつもりはないんです。ただ他の図書館員さんとは一線引いていただけです。」
律は苦笑交じりにそう言った。
全員に宣言しているような素振りだが、実は自分に向かって言っている。
堂上は訳もなくそう思った。

「俺に他の利用者さんと同じように接してくれたのは、笠原さんが初めてだったんです。
堂上さんや柴崎さんは比較的公正だけど、やっぱり気を使ってるでしょ?
親の会社の関係で、同年代の他の利用者の青年とはちょっと違う。
それに引き換え、笠原さんって!
彼女は俺の身分を紹介された時『だからあたしより詳しいんですね』って悔しがったんです。
こんなに普通に接してくれた人、失礼だけど今までいなかった。」

律の言葉に、堂上は思い当たることがあった。
郁に律を紹介した時、郁は確かに律が本に詳しいことを悔しがった。
それを見た律は、心の底から愉快そうに笑ったのだ。
あれは初めて自分を特別視しない図書館員の登場に、喜んでいたのか。

「ちなみに、こちらの皆さんは最低。
この人たち、若い男性には思いっきり笑顔なのに、女性や年配の方には冷たいんだ。
なんなら声かけられても、無視してるしね。
利用者の間では、イヤなやつらで有名だよ。」

律は郁を攻撃していた女性業務部員たちを見ながら、不機嫌に眉を寄せた。
すっかり固まってしまった彼女たちは、周囲からの冷たい視線にさらに竦み上がっていた。

「そんな理由で、笠原さんだけ態度が違います。」
律は鮮やかにそう宣言すると、今度こそ身を翻した。
そして堂上の横を通り過ぎる時、耳元でこそっと短く囁くと、颯爽とその場を去っていった。
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