「図書館戦争」×「世界一初恋」

□第3話「七光りコンプレックス」
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「テメー、ふざけんなよ!」
隊長室に威勢のいい怒声が響き渡った。
それを聞いた特殊部隊の面々は、唖然とするしかない。
なぜならそれは、秀麗な美人である律の口から飛び出したからだ。

窃盗犯確保の際に負傷した律は、手当の前に「お願いがあるんですけど」と告げた。
そのお願いとは、犯人の男と話をしたいというものだ。
さすがにそれは、と堂上は躊躇った。
だが郁は「それくらいの希望、聞いてあげてもいいじゃないですか」と言い張った。

「律さんがいなかったら、確保できたか微妙でした。」
堂上が、そして玄田が律の希望を聞くことにしたのは、郁のこの言葉からだった。
窃盗犯確保の功労者であるなら、そのくらいはいいだろうと。
だがさすがに律を取調室に入れるのは、あんまりな気がする。
かくして窃盗犯の男と律は、隊長室で相対することになった。
万が一に備えて、男には手錠をかけたままだ。
それに玄田と緒形、そして堂上と小牧が同席した。
郁と手塚は隊長室のドアを背にして立ち、万が一に備えている。

「どうしてこの本を盗もうと思ったんですか?」
律はまず静かにそう聞いた。
すると男が項垂れながら「宇佐見秋彦のファンなんです」と答えた。
彼が盗もうとした本の作者である。

「どうしても読みたくて。でも検閲対象の本は手に入らないから。」
「だったら図書館で読めばいい。」
「順番待ちでなかなか借りられないんです!」
「だから盗ろうと思ったんだ?」
「そうです!全部手元に置きたかった。宇佐見秋彦は素晴らしい作家です!」
「宇佐見秋彦が、素晴らしいって?」
「そもそも盗んだのは俺のせいじゃない!検閲なんかなければ、こんなこと。。。」
「テメー、ふざけんなよ!」

最初は穏やかに始まった会話は、窃盗犯の男の激昂で次第にテンションが上がった。
そして律は、威勢のいい怒声を放ったのだ。
隊長室に居合わせた面々も、いや事務所でその声を聞いた隊員たちも度肝を抜かれた。
それほど迫力がある声だった。
それもそのはず、律の心からの怒りが込められていたのだ。

「これは俺が編集を担当した本だ!それに俺だけじゃない!たくさんの人の苦労が込められた本なんだっ!!」
律は怒りの形相で、窃盗犯の男を睨み上げた。
そしてこの本を出すのがいかにたいへんだったかを、捲し立てたのだ。
端整な顔を怒りで歪ませて、短機関銃のように言葉の刃を浴びせる律は美しく、恐ろしかった。
それなりの修羅場をくぐってきた特殊部隊の隊員たちを怯ませるほどに。
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