「図書館戦争」×「世界一初恋」

□第7話「新天地」
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まったく近頃の若いヤツは。
横澤はふとそんなことを思い、まだ20代なのにそんなことを考えた自分に落ち込んだ。
だが取りあえず自己嫌悪は脇に置き、軽薄な男たちの方に向かった。

丸川書店の営業、横澤隆史は、武蔵野第一図書館に来ていた。
出版社に勤めるからには、やはり本好きである。
だから時間があれば、蔵書が多い武蔵野第一図書館に足を運ぶ。
だが実は横澤には、それ以外にも下心もあった。

横澤の想い人もまた本好きで、時折ここに足を運ぶのだ。
だからわざわざ、ここまでやって来る。
すでに玉砕した相手であり、相手は完全に横澤を友人として接しているのがわかる。
だが横澤はまだ割り切れておらず、秘かにここで会うのを楽しみにしていた。
実はその作戦ですでに数回ここで会っており、帰りに一緒に食事をした。
だからまた会いたくて、ついついここに来てしまう。

だが今日は会えなかった。
横澤は閲覧室で検閲対象の小説を読んで、時間を過ごした。
そしてそろそろ帰ろうとしていたとき、嫌な光景に遭遇したのだ。

おそらく10代の男が数名、1人の女性を取り巻いて、声をかけていた。
女性の方もおそらく十代、清楚な感じで少女と言った方がイメージに合う。
そして男たちはヘラヘラと「遊びに行こう」とか「ご飯を食べに行こう」などと誘っている。
少女は戸惑った顔で、必死に首を振って逃れようとするが、2人の男が両側から彼女の腕を掴んでいた。
これはナンパとしてはかなり悪質、下手をすれば誘拐だ。

わざわざトラブルに巻き込まれたくはないが、見過ごすのも後味が悪そうだ。
幸い横澤は職場では「暴れグマ」と異名をとっており、人相の悪さには自信がある。
ガキ数人なら人相で脅せそうだし、分が悪ければ図書館の防衛員に声をかければいい。
横澤は少女とナンパ男たちの方へ向かおうとした。そのときだった。

図書館内に、警報が鳴り響いた。
そしてアナウンスがあり、良化隊の襲撃が来ることが告げられる。
利用者は図書館員の指示に従い、防護室に避難することと。
それを聞き、ナンパ男たちは少女から離れて駆け出した。

やれやれ、これはしばらく足止めを食う。
だけど急いでいるわけでもないし、ナンパ男たちを相手にする手間も省けた。
横澤は図書館員の誘導に従い、防護室に向かおうとして「あ!?」と声を上げた。
ナンパ男たちにからまれていた少女は、何と書架に向かって歩き出したのだ。
そしてアナウンスなど聞こえていない様子で、本を捜し始める。

「おい!君!」
横澤は少女に駆け寄ったところで、気づいた。
少女の長い髪の間から覗く耳には、補聴器があった。
つまり彼女は本当にアナウンスが聞こえなかったのだ。
少女がキョトンとした表情で、横澤を見上げている。
横澤はポケットから手帳を取り出すと、急いで走り書きをした。

良化隊が来ているそうです。避難しましょう。
手帳を読み驚いている少女の手を引いて、横澤は防護室に急いだ。
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