「世界一初恋」×「図書館戦争」

□第17話「フェロモン全開」
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「漫画の資料って、初めて見ましたぁ〜!!」
郁は思わず、無邪気にも盛大な声を上げてしまった。
慌てて口を押さえた時にはもう遅く、堂上が郁の頭に拳骨を落とした。

特殊部隊の事務室に、律が訪ねてきた。
吉野の新作漫画のプロットが出来上がったので、その確認のためだ。
資料はキャラクターの設定と、第1回のシナリオ原稿。
郁やその周りの人々について、どこまで書くつもりを示したものだ。

会議室に通され、玄田、緒形、そして堂上班の4人が応対する。
丸川書店サイドは律だけだ。
本当は吉野と担当の羽鳥が来るべきところだが、それは避けた。
とにかく極秘に進めたい話であるからだ。
武蔵野第一図書館で特殊部隊隊員と話をするのに、一番違和感がないのが律なのだ。

「今回、こういった資料を用意しました。」
律はさっそく資料を取り出した。
キャラクター設定表と第1回のシナリオ原稿だ。
郁をモデルにした主人公や彼女を取り巻く人々がどんな風に描かれるかがわかるようになっている。
今回の執筆にあたり、郁を守るためのガイドラインのようなものだった。
資料は3部用意しており、玄田と緒形、堂上と郁、小牧と手塚が1つの資料を覗き込んでいる。
郁は大きな声で感心し、堂上に拳を落とされるというオマケつきだ。

「主人公は防衛員だけど、図書館業務もこなすということになっていますね。」
早々に口を開いたのは、堂上だった。
律は「その通りです」と答える。
すると堂上の眉間のシワがいつもよりも3割増し程度、深くなった。

「それは作家の譲れない部分なんです。図書館で働く姿も、戦う姿も描きたいと。」
「だけど両方をやれるのは、女子では日本で唯一、笠原だけです。」
「その配慮として、特殊部隊という表記は一切しません。」
「だけどこれでは、少なくても図書隊の人間は間違いなく笠原を連想する。」
「・・・それはそちらの問題では?」

堂上と律のやり取りはいきなりヒートアップした。
律としては、絶対に譲れないのだ。
吉野が自分の描きたいものと郁のプライバシーを考慮しながら、苦労して作った資料だ。
なんとしてもこれでOKをもらう!

「先日、笠原さんが犬とレースをするのを見ました。面白かったけど。」
いきなり変わった話題に、一同が困惑する。
だが律は容赦なく畳み掛けた。

「だけど俺が簡単に見られるって問題ないですか?」
律はそう告げて、じっと堂上を見た。
頭のいい堂上ならわかるはずだ。
あんなのが利用者にまで日時が知れ渡っていて、見るのも自由。
もし郁のプライバシーを心配するなら、それこそがおかしいのではないかと。

「レースの件然り、世相社さんの件然り。自分たちには甘くてこちらには厳しい気がしますが」
律の言葉に、堂上が痛恨の表情になった。
玄田も緒形も、小牧と手塚も、同様だ。
これが卑怯な作戦だとわかっているが、律も必死なのだ。

「あの、あたしはこれでいいと思います。」
「笠原、いいのか?」
「もちろんです。配慮してくださってるし、これを読んでもらえれば図書隊への理解も深まります!」

郁がニッコリ笑顔で了承すれば、堂上ももう何も言えない。
律は机の下で拳を握り、すかさず玄田に「よろしいですか?」と念を押す。
玄田が緒形に頷くと、緒形が「異存はありません」と告げた。
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