「黒子のバスケ」×「図書館戦争」

□第8話「イベント」
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「どりゃあぁぁ〜!」
いきなり至近距離で郁の声がした。
次の瞬間、足払いをかけられた堂上の身体は、床に倒されていた。

午後、堂上班は格闘訓練だった。
いくつかの班との合同で、総勢20名ほどの屈強な男たちが柔道着に着替えて集合した。
そんな中、郁の顔をチラリと見た堂上は「おや?」と首を傾げる。
この訓練は郁には、圧倒的につらいものだ。
腕力的にも体格的にも劣るので、どうしてもまともに組み合ってはかなわない。
必然的に関節技など、相手の隙をつくような技を重点的に教えることになる。

郁は格闘技訓練の日には、いつも険しい顔をしている。
女性であることのハンデをまざまざと見せつけられる訓練なのだ。
それでも一矢報いようと、負けず嫌いの郁は挑み続ける。
結局何度も投げ飛ばされ、身体中痣だらけになりながらも、決して自分からは止めない。
堂上はそんな郁を見ながら、いつも痛ましい気分になった。

だが今日の郁は違った。
表情を引き締めようとしても、どうしても口元から笑みがこぼれてしまうのを止められない。
まるで悪戯を企む子供のような顔だ。
どうやら何かをこの訓練で試そうとしているのだろう。
小賢しい。それなら受けてやる。
堂上は訓練が始まるなり「笠原!俺と組め!」と叫んだ。

「そんな。堂上二正の手を煩わせるようなことは」
すかさず手塚がそんなことを言い出した。
手塚は手塚で、真っ先に堂上と組みたかったのだろう。
それと郁がこの訓練ではハンデを背負っていることを知っている。
だからこそ出たド天然な発言で、決して郁を侮っているわけではない。

普段の郁なら「なにおぉ〜!?」とムキになっていたことだろう。
だけど郁はニンマリと口元を歪めると「別に誰でもいいですよ」と笑った。
ここまでくれば、逆に興味がわく。
堂上は「手塚、笠原の次はお前だから」と宣言すると、郁と向き直った。
タダならぬ雰囲気を感じたのか、他の隊員たちもこの勝負に注目し始めた。
とりあえず相手を見つけて組み合いながらも、堂上と郁にチラチラと視線を送ってくる。

「さぁ、来い!笠原!」
堂上は郁を促しながら、何か変わったところがあるかを観察した。
だが郁のかまえや身のこなしは、普段と何も変わらない。
さて何を仕掛けてくるのか。
そう思った瞬間だった。
確かに数歩分の間合いがあったはずなのに、一気に距離を詰めてきた郁が堂上に足払いをかけたのだ。

「おお!」
「マジか!?」
「やったな、笠原!」
隊員たちから歓声が上がり、郁が「やった〜!」と拳を突き上げた。

「すごいね、笠原さん。何をやったの?」
小牧がそう聞いているところを見ると、見ていた者たちも何が起こったのかわからないのだろう。
堂上も身体を起こしながら、郁の答えを聞く。

「黒子先生に視線誘導を習ったんです!格闘技訓練でやられまくってるって言ったら、教えてくれて!」
郁の言葉に、堂上の表情は固まった。
他の隊員たちも、班長クラスの面々は微妙な表情だ。
よりによって要注意人物と、どうして仲良くなっているのか。

「まだまだ色々教わってますからね!覚悟してください!」
やる気満々な郁の表情に、堂上は眉間のシワを深くした。
空気の読めない手塚だけが、自分も黒子に視線誘導を習いに行こうかなどと真剣に考えていた。
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