「アイシールド21」×「図書館戦争」

□第3話「挑発」
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「いいじゃねーか。糞チビ。その勝負、受けてやれ!」
ヒル魔の高らかな宣言に、セナは思わず「ハァァ」とため息をついた。
売られた勝負を買わないという発想は、この男にはないのだ。

「よろしくね。セナ君。」
図書隊の唯一の女性隊員、堂上郁が気さくに声をかけてくる。
セナは「こちらこそよろしくお願いします」と頭を下げた。

勝負の相手が郁であることに、セナは少なからず驚いた。
だが彼女はかつてインターハイやインカレで名を馳せた選手だそうだ。
しかも検閲抗争時には伝令など、足を生かした活躍をしているという。
もちろん図書隊側が、そんな情報を教えてくれるはずがない。
ヒル魔が事前に仕込んでおいたネタだ。
どうしてそんなことを調べ上げているのか?
答えは簡単、ヒル魔だからだ。

2人の勝負はシンプルに100メートル走ということになった。
セナとしては身体に沁み付いている40ヤードが嬉しいのだが、言い出せる雰囲気ではなかった。
郁が「スタートはスタンディングがいいですか?」と聞いてくれて、ホッとした。
クラウチングスタートは陸上部の助っ人のときにやったけれど、慣れていない。

「On your mark」
声がかかって、セナと郁はスタート位置についた。
部員たちも図書隊員たちも全員が集まり、固唾を飲んで2人の勝負を見ている。
スターターは進藤という図書隊員が、やってくれることになった。

「Get set!Go!」
合図とともに、2人は飛び出した。
すぐに郁が先行し、セナが追う形になる。
だが並ぶのが精一杯で、抜き去ることはできなかった。

ゴールするなり、歓声が巻き起こった。
パッと見には、ほぼ同着に見えただろう。
だが僅差で郁の勝ちだ。
セナは「負けました!」と潔く認め「ありがとうございました」と頭を下げた。

「何だよ、セナ。女の人だからって手を抜いたりしてねーよな?」
モン太がセナにタオルとドリンクを渡してくれながら、そう言った
セナは「そんな失礼なこと、しないよ」と苦笑しながら、受け取る。
するとヒル魔が「まぁこのルールじゃ糞チビに勝ち目はねーな」と笑った。

「聞き捨てならねぇな。負け惜しみか?」
割り込んできたのは、スターターを務めた図書隊員の進藤だ。
どうやらヒル魔の言葉を聞きつけたのだろう。
まるで最初から負けるのがわかってたような言い様が気に入らなかったらしい。
よくよく見ると、納得いかない顔をしていたのは進藤だけではなかった。

「別に負け惜しみでもなんでもねぇよ。ただ走るだけならこいつは早くねぇ。」
「信じられねぇな。」
「だったらもう一勝負するか?この2人じゃなく図書隊対泥門デビルバッツだ。」

ヒル魔はケンカ腰にそう言い放つと「ケケケ」と高笑いした。
セナは図書隊員たちの表情が変わるのを見て「ハァァ」とため息をつく。
さっきまでさすがと思っていた大人の集団は、あっさりとヒル魔の挑発でスイッチが入ったのだ。

「糞チビ、もう一勝負だ」
楽しそうにそう宣言したヒル魔に、セナはもう1度深いため息をついた。
悪魔に逆らったところで時間の無駄であることは、わかり切っている。
つまりやるしかないのだ。

【続く】
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