「おおきく振りかぶって」×「図書館戦争」

□第6話「連行」
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実の親と気まずいっていうのは、つらいよな。
堂上は郁と両親の姿を見ながら、そんなことを思った。
普段は子供のように無邪気な笑顔を見せる郁だが、両親の前では思いっきり表情が強張っていたのだ。

まったく忙しい。
今年度になってから、堂上はいつもそう思っている。
単に特殊部隊の班長と錬成教官を仰せつかったせいではない。
笠原郁という部下を持ったせいだ。

その忙しさは、決して不快なものではない。
郁はあらゆる意味で規格外の人間であり、巻き起こす騒動も予想外のものばかり。
だから付き合わされる堂上としては、疲れることこの上ない。
それなのにいちいちどこか笑いを誘うのも、郁が郁である所以だろう。

そして今回は両親の「襲来」だ。
戦闘職種であることを親に隠している郁のために、堂上は駆けずり回った。
シフトを調整し、特殊部隊だけでなく防衛部や業務部にもさり気なく口止めをした。
また寮に宿泊する郁の父の世話も自分がすると買って出た。

今も堂上はさり気なく、隊員食堂で食事をする笠原親子を見守っている。
少し離れた席を陣取り、周囲に目を走らせていたのだ。
万が一にも郁の所属をバラしそうな者が話しかけたりしないように。
また郁と両親の雰囲気次第では、割り込むつもりでいた。
だが幸いなことに、遠目に見る限りでは笠原家はのどかに談笑していた。

「まったく過保護だねぇ。」
堂上の様子を見ながら、そんな感想を漏らしたのは小牧だ。
笠原家の様子を見守っていたのは、堂上だけではない。
堂上班の男3人プラス柴崎、計4名だ。
ちなみに小牧と柴崎は、気を揉む堂上も含めて楽しんでいる。
手塚だけは普段と変わらず、淡々と食事をしていた。

「まったくですよ。堂上教官。」
柴崎も優雅に箸を動かしながら、小牧に同調した。
そして「笠原、笑顔が硬いわ」と苦笑する。
確かに一見すると笑顔の郁だが、普段とはまるで違う。
郁の日常を知る者から見れば、無理矢理感が滲み出た笑みだ。

「どうして実の親と話すのが、あんなに大変なのかしら」
堂上たちにとも独り言ともつかない口調で、柴崎が呟く。
小牧が「確かにねぇ」と同意しながら、チラリと堂上を見た。

堂上も小牧も郁たちが気になるが、それ以上に柴崎のことが気になっていた。
稲嶺司令誘拐事件で、図書隊の情報が漏れた可能性がある。
その郁の証言に、稲嶺も同意したと聞いている。
もしもそれが当たってるとしたら、状況的に一番怪しいのは柴崎なのだと思う。

結局堂上たちは口止めをされただけで、その後のことは知らない。
完全に容疑が晴れたのか、もしくはグレーな状態なのか。
だが敢えて聞こうとは思わなかった。
柴崎は断じてスパイなどではない。
身贔屓などではなく、戦闘職種の本能がそう告げている。
少々ひねくれてはいるが、根は真面目で本を守ることには熱い女なのだ。
それにスパイだとしたら、同室の郁の野生の勘にとっくに引っかかっているはずだ。

だから今は目の前にいるこの女を信じる。
堂上と小牧の意見は一致していた。
だが柴崎に気を取られていたせいで、郁のささやかな危機に気付かなかった。
そして「レンちゃん」はまだこの時点では完全にマーク外だったのだ。
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