「おおきく振りかぶって」×「図書館戦争」

□第6話「連行」
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「レンちゃん。休憩ね〜!」
ランチタイムが一区切りしたところで声をかけられ、三橋は「はい!」と元気よく返事をした。
もはや制服と言っても良い白衣と帽子を脱ぎ、敷地内を歩き始めた。
もうすぐ本格的な冬の寒さがやって来るだろう。
屋外の散歩を楽しめるのも、あとわずかだ。

歩き始めた三橋は、見知った人物を見かけて思わず足を止めた。
特殊部隊の紅一点、笠原郁とその両親だ。
数日前、3人で隊員食堂でランチをとっていた。
郁は普段なら大盛りにする日替わり定食を、あの日だけは少な目のご飯で食べていた。

「ありがとう!助かったよ!」
その翌日1人で現れた郁は、三橋に礼を言った。
親に戦闘職種だと隠しているし、特に母は郁が女の子らしくない行動をすることを嫌う。
あの場でいつも通りに大盛りを出されたら、結構気まずかったと思うから。
郁はそう言って、困ったように笑っていた。

知ってたから、そうしたんだけどね。
三橋は郁の礼を受け流しながら、内心はそう思っていた。
特殊部隊の情報は、それなりに集めている。
郁と両親の関係もある程度わかっていたから、あの場では気を利かせることができたのだ。

自業自得。甘すぎる。
三橋は緑の中を歩きながら、その童顔に似合わない悪態をついた。
小田原から外されたくせに、まだ親と向き合えない郁の優柔不断さには少々呆れる。
だが三橋も親には言えない秘密を抱えているのだ。
結局それが弱みになってしまっていることを思えば、あまり笑えない。

郁と両親の姿が見えなくなったところで、ポケットの中でスマホが震えた。
慌てて取り出し、アプリを開く。
すると元チームメイトからメッセージが届いていた。

今、武蔵野第一図書館に来ている。会えない?
メッセージを読んだ途端、三橋は小走りで図書館に向かう。
極力目立たないように、でも急いで。
そして図書館に駆け込んだところで、メッセージの送り主の姿を見つけた。

「やぁ。元気だった?」
控えめにおっとりと笑うのは西広辰太郎、三橋の高校時代のチームメイトだ。
単に同じ野球部というだけではない。
西広は成績優秀で、試験のためにわざわざ勉強をしないというツワモノだった。
赤点ギリギリの三橋、田島は定期試験の前はいつも西広に面倒を見てもらっていたのだ。

「どした、の?急、に」
三橋は笑顔で応じながら、嫌な予感がした。
それは単なる勘だけではない。
小田原での戦闘で、図書特殊部隊はかなりのダメージを受けた。
それと同様に良化隊だって無傷ではないのだ。
そして西広は大学卒業後に官僚となり、法務省に勤務している。

「年が明けたら、メディア良化委員会に異動になるんだ。」
「・・・そう、なのか」
「多分個人的に図書館に来るのは、今日で最後になると思う。」
「もしかして、オレ、の、せい?」

西広は元々本好きで検閲反対、つまり図書隊に近い考え方のはずだ。
それなのに良化委員会に配属される。
それはつまり三橋と友人であることに関係あるのだろうか?
だが西広は「違うよ」と笑った。

「単に小田原での欠員を埋めるためだよ。オレの頭脳と身体能力を買われたんだ。」
「それで、いいの?」
「かまわないよ。オレなりに思うところもあるし、戦うだけだ。」

西広の迷いのない言葉に安堵したものの、三橋としては複雑だった。
良化委員会なんて、嫌われる仕事だ。
あの優しい西広がそんな立ち位置になるなんて、にわかに信じられない。
だが西広は「大丈夫だよ」と穏やかに笑った。

「それからもう1つ。阿部のことなんだけど」
西広は不意に真面目な表情になると、新たな話題を切り出した。
三橋はその名前に身構えながら、最悪のニュースを知らされたのだった。
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