「おおきく振りかぶって」×「図書館戦争」

□第7話「お大事に」
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「レンちゃん。出前を頼みたいんだけど。」
堂上が深刻な顔でそう言った。
三橋はコテンと首を傾げたが、すぐに「毎度、ありがと、ございます」と頭を下げた。

ランチタイムのピークを過ぎ、三橋はホッと息をついた。
いつもと変わらない、穏やかで慌ただしい日々。
だけど忙しいのはいいことだ。
余計なことを考えなくてすむのだから。

さて一休みしたら、夕食の準備だ。
厨房へ出て、大きく伸びをしたところで「レンちゃん」と声をかけられた。
特殊部隊の最年少班長、堂上だ。
三橋はコテンと首を傾げる。
背こそ小さいけれど、さすがは特殊部隊、ガッチリと筋肉がついている。
そんな男に「レンちゃん」と呼ばれるのは、少しだけ違和感があった。

「出前を頼みたいんだけど。」
「毎度、ありがと、ございます。」
三橋はすぐに気を取り直すと、すかさず身構えた。
小牧が良化隊に連行されたことで、特殊部隊は大変なのだ。

「なにか消化のいいものを。できれば寮の小牧の部屋に。」
「わかり、ました!鶏雑炊、とか、ど、です、か?」
「ああ、いいな。美味そうだ。」
「今から、30分、後、くらいに、届け、ます。」
「わかった。よろしく頼む。」

キビキビとした足取りで去っていく堂上の後ろ姿を見ながら、三橋はホッとしていた。
小牧は解放され、寮に戻ったのだろう。
今回の件はいくらなんでもひどすぎる。
このまま図書隊が小牧の居場所を掴めなければ、何とかしてリークしようかと真剣に考えていたのだ。
未来企画の手塚慧が探りを入れてきたと聞いて、思いとどまったのだが。

「出前、注文、いただき、ま、した!」
三橋は厨房に戻ると、声を張った。
すぐにおばちゃんたちから「休まなくていいの?」と声がかかる。
だが「だい、じょぶ、です!」と元気よく答えた。
少しだけ痛む良心は、これで穴埋めさせてもらおう。
そもそも三橋がどうにかできる話ではないし、見当違いだとは思うが。

それからきっかり30分後、三橋は小牧の部屋のドアを叩いた。
傍らに台車には鶏雑炊を入れた土鍋とお玉、小ぶりのお茶碗をいくつか。
さらにランチタイムで残った煮物や和え物の小鉢をサービスした。
ドアは程なくして開き、手塚が顔を出した。

「で、出前、です。」
「ありがとうございます。」
台車の上には大きなトレイがあり、土鍋などは全てそこに載せてある。
手塚はトレイを軽々と持ち上げて、運んでいった。
ベットで寝ていた小牧は身体を起こす。
その傍らに座っていた堂上がドアまで来て、差し出した伝票に受け取りのサインをした。

「1時間、後、くらいに、取りに、来ます。台車、置いといて、いい、ですか?」
「かまわない。無理な注文して悪かったな。」
「いえ。毎度、ありがと、ございます。お大事に!」

三橋は深々と頭を下げると、ドアを閉めた。
そして帰る道すがら、思わず「ムッフフ〜ン」と鼻唄が出る。
やはり今回の件はかなり後味が悪かった。
だから回復しつつある小牧の顔を見て、三橋は心の底からホッとしていたのだった。
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