「おおきく振りかぶって」×「図書館戦争」

□第7話「お大事に」
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「あ〜、生き返る!」
小牧はれんげを忙しく動かしながら、猛然と雑炊を食べている。
堂上は「落ち着いて食えよ」と苦笑しながら、元気を取り戻しつつある友人の姿に安堵していた。

「お大事に!」
出前を届けてくれた三橋が出て行った後、手塚が土鍋の蓋を開けた。
たちまち漂う出汁の良い香りに、思わず3人の顔が綻ぶ。
雑炊自体は鶏とネギ、そして卵だけのシンプルな雑炊だ。
おそらく小牧の体調が万全でないことを察して、優しい味に仕立ててあるのだろう。
味が足りない場合を考慮して、醤油と七味唐辛子を添えてある。
傍らにはほうれん草の胡麻和えや野菜の煮物もつけてくれていた。
メニュー外の無理を言ったのに、三橋は最大限のサービスをしてくれたようだ。

「こんなに食べきれるかなぁ?」
最初は大きな土鍋に苦笑する小牧だったが、食べ始めたら止まらないらしい。
堂上はそんな小牧の様子を見ながら、ホッとしていた。
これだけ食べられるなら、きっと回復も早いだろう。

「確かにこれは箸が進むな。」
堂上も熱い雑炊をハフハフと頬張りながら、そう言った。
手塚もそれに倣いながら「美味いです」と同意する。
三橋に「1人分」と言わなかったので、雑炊はなかなかの量だったのだ。
小さな茶碗もいくつか添えてくれているので、ありがたく相伴に預かったのだが、予想以上の美味さだ。
どうやら残してしまう心配はしないでよさそうだった。

「ところでさ、堂上。」
雑炊を片づけ、ようやく人心地ついた小牧は真剣な口調になった。
問い返す堂上も「何だ」と仕事モードになる。
何か言いたいことがあるということは、図書基地に戻る道すがらに察していた。

「稲嶺司令誘拐事件の時、笠原さんが言ってたでしょ。」
「何をだ?」
「突入の寸前に、敵の半数以上が姿を消してたって」
「ああ。言ってたな。って、まさか」
「そのまさかだよ。今回も同じだった。」

堂上は腕組みをしながら、眉間にしわを寄せた。
敵が突入の直前に姿を消す。
郁と同じ感想を小牧が持つ意味は大きい。
それはかつて疑ったスパイの存在を決定づけるからだ。
しかも今回の小牧の救出タイミングは、特殊部隊の中でも知らない者が多い。
乗り込むことを事前に知っていたのは玄田と緒形、堂上と郁と手塚、そして柴崎くらいだ。

「今回は俺かもしれません。」
考え込んでしまった堂上に声をかけたのは手塚だった。
堂上と小牧の「「は?」」と驚く声が重なる。
手塚はその剣幕にやや引き気味になりながら「正確には俺のネタ元です」と答えた。
小牧の居場所を手塚に教えた人物、手塚慧のことだ。

「そうか。その可能性もあるわけか」
堂上はホッと息をついた。
この時点でまだ堂上はネタ元が手塚慧であることを知らない。
だが手塚がそう評したことで、相手は良化隊と繋がりのある人物なのだと推察した。
堂上は「一応、隊長には報告しておく」と告げ、この話題を断ち切った。

「関係ないけど、良化隊の中に親切な青年もいたよ。」
「親切?」
「水やゼリーをくれたり、ボディシートを使わせてくれた。」
「確かに親切だな。」
「それがさ、その彼、隊員食堂のレンちゃんにちょっと雰囲気が似てるんだ。」

堂上が「へぇ」と感心し、手塚も意外そうな表情になる。
その後も和やかに談笑していると、当の「レンちゃん」こと三橋が食器を下げに来た。
3人はごくごく自然に「御馳走様」「美味かった」と礼を言ったのだった。

堂上も小牧も手塚も、残念ながら気づかなかった。
三橋が食事を運び、置きっぱなしにしていた台車に超小型の盗聴器が仕掛けられていたことを。
つまり3人の会話は、三橋には筒抜けになっていたのである。
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