「おおきく振りかぶって」×「図書館戦争」

□第8話「黒星」
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「災難だったわね。レンちゃん」
年配の女性業務部員が苦笑と共に、そう言った。
三橋はへにょりと眉を下げながら「仕込み、が」と肩を落とした。

検閲抗争の警報の後、三橋は業務部の部屋にいた。
ちょうど図書館におり、ここに誘導されたのだ。
戦闘開始時間は、ちょうど図書館に閉館時刻だった。
だから館内にいた利用者は、全員出口に誘導された。
だが三橋は完全に取り残され、オロオロしていたところで声をかけられたのだ。

「食堂、に、戻る、道、なくなって」
「確かに盲点だわね。」
三橋をここに連れてきてくれた業務部員は苦笑していた。
確かに図書館から食堂までのルートは戦闘になることが予想されるので、警報と共に封鎖されるのだ。
図書隊員と利用者の行動はマニュアル化されているが、食堂スタッフのことは考慮されていなかった。

「でもなんで図書館にいたの?」
「出前、帰り、近道で」
遠慮がちに答える三橋に、そこにいた業務部員たちは理解した。
食堂スタッフとはいえ、図書隊関係者なのだ。
用もないのに、図書館内をウロウロすべきではない。
三橋もそこはわかっているようで「もう、しません」と項垂れた。
遠回りでも裏から回れば、ここで足止めを食うこともなかっただろう。

「まぁ次から気をつければいいんじゃない?」
別の業務部員がフォローするようにそう言った。
柴崎もそんなやり取りを聞きながら、頷いていた。
ちょっとばかり楽をしようとしたせいで、こんなことになった。
だが早々責められるようなことでもないだろう。

「ひょっとしたら、真夜中までかかるかもね。」
柴崎の横でウンザリしたようにそう言ったのは広瀬だった。
すると三橋が「そう、なの?」とコテンと首を傾げる。
そんな仕草はまるで少年のようで、どこからともなく「カワイイ」と声が上がった。
すると年配の男性業務部員がコホンと咳払いをした。
抗争中なのだから、気を抜くなという無言の圧力だ。

「閉館時刻に始まったから、利用者を気にしないで長い戦闘ができるの。」
三橋をここに連れてきた女性業務部員が、説明してやっている。
そして「それにしてもこの時期は多いわね」と付け加える。
確かに2、3月は検閲抗争が多いが、その理由はわからない。
年度末だから駆け込みで成果を上げるためとか、4月は新人の研修で忙しいとか。
中にはバレンタインやホワイトデーに相手がいない良化隊員の憂さ晴らしなんて説もある。
だがその真偽はもちろん明らかではない。

だが程なくして、抗争の終了を告げる警報が鳴り響いた。
業務部員たちは一様に壁の時計や自分の腕時計を見て、怪訝な表情になる。
なぜなら抗争開始から、まだ1時間しか経っていない。

「は、早か、た、ですね。」
三橋の声が静まり返った空間に間抜けに響いた。
その声を合図に、業務部員たちは怪訝な表情のまま動き始めたのだった。
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