「おおきく振りかぶって」×「図書館戦争」

□第9話「タカヤ」
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「失礼します!後方支援部です!」
特殊部隊の事務所によく通る声が響き渡った。
それは怒声に慣れている特殊部隊隊員たちでさえ、一瞬驚くほど大きかった。

「盗聴器とカメラを調べる!?」
意外な通達に郁は思わず声を上げて、首を傾げた。
だが特殊部隊の事務室で意外そうな顔をしている者は誰もいない。
堂上は「ついにそうなったか」と眉間のシワを深くし、小牧は「遅すぎたくらいかも」と呟く。
手塚までもが黙ったまま頷いたのを見て、郁は不満そうに口を尖らせた。
見かねた堂上に耳元で「お前も司令と一緒に誘拐されたとき、証言しただろう」と告げられる。
そこで郁はようやく「わかった!」と声を上げた途端、堂上から「うるさい!」と怒鳴られた。

「さっそく調べさせていただきます!」
元気よく現れたのは、見慣れない青年だった。
事務所にいたほぼ全員が「誰だ?お前」という顔になる。
特殊部隊が後方支援部の隊員と仕事をする機会は、決して多くはない。
それでも何となく顔は覚えているものだ。

「4月から配属になったのか?」
全員の疑問を代表するように口を開いたのは、進藤だった。
青年は「はい!よろしくお願いします!」とこれまた元気よく頭を下げる。
作業着の左胸には二等図書士の階級章、名札にはローマ字で「TAKAYA」と書かれていた。
後方支援部には名札の義務付けはないが、新顔なので付けているということか。

「タカヤ君か」
「高い谷と書いてタカヤです。それでは特殊部隊庁舎を調べさせていただきます。」
高谷はすぐに下げていたショルダーバックから、トランシーバーのような機械を取り出した。
スイッチを入れると、アンテナを伸ばし、特殊部隊事務室の中を歩き始める。
それを見た郁は「テレビで見たことある!盗聴器バスターとか!」と声を上げた。
堂上が拳骨を落とそうとする前に、高谷が「テレビとかでたまにやってますね」と苦笑した。

高谷は時間をかけて、特殊部隊の庁舎の中を歩き回った。
事務室のみならず、隊長室や会議室、給湯室までも。
だが特に反応はなかった。
さらにもう1つ、別の機械を取り出して同じように歩き回ったが、これまた反応なしだ。

「拾う電波が違う2つの機械を試しました。でもどちらも反応がないっすね。」
高谷は全員が注目する中、そう言った。
堂上と小牧は思わず顔を見合わせる。
隊員たちも言葉もなく、困惑の空気が広がった。

「電話とコンセントタップも確認します。コンセント外してまずいヤツは電源落としてください。」
もしも盗聴器があるなら、確かにセオリーは電話機かコンセントタップだろう。
電池式ではすぐに切れてしまうから、頻繁に電池交換が必要だ。
それができないなら、自動的に電源が取れるものに仕込むのが最良なのだ。
隊員たちはその指示に従い、自分の席のパソコンの電源を落とした。

電話機は事務所に10数個、コンセントタップは20個以上ある。
だが高谷は文句を言うこともなく、順番に外して分解していく。
そして中身を開くと、いちいち隊員たちに中身を見せた。
どれもごくごく普通の電話機かコンセントタップ、盗聴器など影も形もなかった。

「発見機の反応もないし、電話にもコンセントタップにもない。ここにはなさそうっすね。」
高谷はそう結論付けると、ショルダーバックに機械や工具を片づけていく。
実に1時間に渡った捜索は、完全に空振りだった。
引き上げようとする高谷の背中に、堂上が声をかけた。

「他の場所も調べるのか?」
「ええ。館内全部調べるように言われてます。多分1日がかりっすよ。」
「大変だな。」
「手分けしたいところですが、発見機がこれしかないんで。」

高谷は苦笑した後「失礼しました!」と頭を下げて、出ていった。
堂上と小牧は顔を見合わせると、むずかしい表情になる。
おそらく隊員食堂の「レンちゃん」こと三橋に嫌疑がかかったのだろう。
出前と称して、館内をくまなく行ったり来たりする彼なら、盗聴器を仕込むことも可能だ。
だが何もないなら、その可能性は否定される。
そして再び疑いは特殊部隊の隊員、もしくは柴崎に戻ってくるのだ。

「まぁ結果待ちだよね。他のどこかから盗聴器が出るかもしれないし。」
小牧はそう言うものの、表情は冴えない。
そう、もしも三橋が盗聴器を仕掛けるから、特殊部隊庁舎を外すはずがない。
おそらくここにないということは、他から出る可能性が低いのだ。
小牧や堂上だけでなく、他の隊員たちもそのことは理解している。

「とりあえず何もなくて、よかったですね!」
おそらくこの場でただ1人、状況を理解できていない郁が元気よくそう言った。
堂上はこの能天気さが羨ましいと、心の底からため息をついたのだった。
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