「おおきく振りかぶって」×「図書館戦争」

□第9話「タカヤ」
4ページ/5ページ

何なのよ、まったく!
郁はモヤモヤとやり切れない気持ちを押さえられない。。
だがすぐに見抜かれたらしく、堂上に「この、アホゥ!」と拳骨を落とされた。

先日、関東図書基地内で大々的にカメラと盗聴器の捜索が行なわれた。
郁としては、最初は何のことかわからなかった。
定期点検の一環と通達され、のほほんと「そんなのあるんだ」と思ったほどだ。

だが堂上に「お前も司令と一緒に誘拐されたとき、証言しただろう」に説明され、理解した。
隊内にスパイがいる可能性があり、それを見つけるための盗聴器捜索なのだと。
郁以外の全員、手塚でさえ説明なしで納得した表情だったのには、地味に傷ついたが。

「盗聴器なんて、ホントにあるんですかね?」
高谷という後方支援部の隊員が捜索するのを見ながら、郁は不安になった。
テレビなどで見たことがある盗聴器バスターさながらの作業が、目の前で行われている。
しかも電話機や電源を分けるコンセントタップを全て分解するほどの徹底ぶりだ。
だが郁には妙にシュールで、他人事のように思えた。

結果として、特殊部隊庁舎から盗聴器は出なかった。
業務部や防衛部、図書館内も同様だ。
ではまったく出なかったのかと言えば、さにあらず。
予想外の場所で、盗聴器が発見された。
1つは官舎の一室、もう1つは独身寮の共同ロビーだ。

官舎の方は新婚夫婦の部屋で、電話機の中から見つかった。
仕掛けたのは、この部屋の世帯主である防衛員の夫。
彼は昇任と同時に多忙になり、その間に可愛い妻が浮気していないかと不安になったらしい。
そこで妻の行動を監視するために仕掛けたのだと自供した。

寮の共同ロビーのものは、かなり悪質だった。
それは音声の盗聴だけでなく、映像も撮影できる盗撮カメラだ。
盗聴器発見機では見つからなかったが、コンセントタップを分解して見つかった。
犯人は業務部の男性士長で、彼は柴崎麻子に好意を寄せていた。
そこで柴崎の写真や動画が欲しくて、カメラを仕掛けたのだという。

特殊部隊の事務所でその話を聞かされた郁は、怒っていた。
それはもうわかりやすく、顔や態度に出ている。
大事なルームメイトがそんな邪な目で見られていたことが我慢ならないのだ。
堂上は何度も「切り替えろ」と言っても、簡単にはいかない。
そしてついに「この、アホゥ!」と拳骨を落とされたのだった。

「痛い!痛いじゃないですか!」
「切り替えろと言っているだろうが!」
「切り替えてますよ!」
「切り替わってないから言ってるんだ。そんな態度では利用者が怖がる!」

そう、堂上と郁は現在館内警備のために巡回中なのだ。
だが怒り顔でドスドスと荒っぽく歩く郁には、利用者もビビる勢いだ。
郁は「ハァァ」とため息をつくと「すみません」とあやまった。

「わかってるんです。怒るのはそこじゃないって」
「まぁな。肝心のスパイがわからず、全然別の問題が出てきたわけだし」
「でも本当なんですか。隊食のレンちゃんがスパイだなんて」
「証拠は出なかった。真相はまだわからない。」

そう、結局何も出なかった。
本当にスパイがいるのか、いないのか。
今はそれさえもよくわからない状態だ。

「あ、あの」
再び歩き出した2人の前に現れたのは、今噂をしていた三橋だった。
郁は思わず目が泳ぎ、堂上さえも一瞬押し黙る。
だがすぐに気を取り直して「何かあったのか?」と聞き返したのだが。

「か、館内、に、怪しい人、います。」
「怪しい人?」
「良化隊、か、賛同、団体」
「どこだ?」
「ええ、と。純文学、の、コーナー。若い、男性。黒い、ジャケット、ジーパンで」
「わかった。」

堂上と郁は三橋が教えてくれた場所に向かって、走り出した。
そして言われた通りの人物を見つけたところで、郁が「あ!」と声を上げる。
それは顔覚えの悪い郁でさえ、忘れられない顔。
稲嶺と共に誘拐された時、特殊部隊の突入直前に姿を消した男の1人だった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ