「おおきく振りかぶって」×「図書館戦争」

□第9話「タカヤ」
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「なんか騒がしいっすね。」
「タカヤ」は何気ない口調を装いながら、先輩隊員に話しかける。
先輩は特に疑うこともなく「ああ、館内で捕り物があったらしいよ」と教えてくれた。

後方支援部と一口に括られるが、案外人数は多い。
図書館業務のサポートや、蔵書の管理、防衛部の武器や訓練機器の整備など。
だからいくつかの会社が入って、多くのスタッフが図書隊員の肩書きを背負って作業をしている。

「タカヤ」が所属している会社は、館内保全の仕事をしていた。
一番大きな仕事は、抗争で壊された施設を修繕することだ。
普段は備品の補充や修理、切れた電球の交換や庭木のメンテナンスなどもやる。
ぶっちゃけ単調で地味で、面白味はなかった。
常駐しているスタッフは数名で「タカヤ」も含めて全員男性だ。

配属されて程なくして、図書隊から盗聴器捜索の依頼が来た。
館内をくまなく、徹底的に捜索してほしいと。
それを聞いて、全員が嫌な顔をした。
後方支援部と言えども、それなりに隊員たちとは親しくなっている。
疑うような真似をするのは、気が進まないのだろう。

「それならオレやりますよ。まだ来たばっかりでほとんど顔見知りはいないし。」
「タカヤ」がそう申し出ると、全員がホッとした表情になった。
かくして盗聴器発見用の機器を揃え、館内を闊歩することになったのだ。

盗聴器なんか、出てくるはずがない。
「タカヤ」はそう思っていた。
なぜなら三橋が事前に仕掛けた盗聴器の場所は聞いているからだ。
だからその部屋で捜索するときは、ダミーの発見器を使った。
場所はオーソドックスにコンセントタップの中。
だから仕掛けられているコンセントタップを分解するときは、同型のものとすり替えた。
そして分解して何もないことを見せてから、盗聴器付きのものをまた戻した。
この手法で、三橋が仕掛けた全ての盗聴器は見つかることなく元の場所に戻されたのだ。

だがまさか独身寮と官舎で見つかるとは、計算外だ。
三橋が仕掛けた場所以外では、普通の発見器を使ったのだ。
仕掛けた理由を後から聞いて呆れたが「タカヤ」としては問題ない。
むしろ今回の捜索にリアリティが出て、ありがたいほどだ。
カメラと盗聴器の発見を報告してからは、淡々とまた業務をこなした。

そんなある日のことだった。
「タカヤ」は備品を届けに業務部に行ったのだが、図書館内が妙に騒がしいことに気付いた。
そこで事務所に戻るなり、図書館で作業をしていた先輩隊員に聞いてみたのだ。

「なんか騒がしいっすね。」
「ああ、館内で捕り物があったらしいよ。」
「捕り物ですか?」
「ああ。良化法賛同団体の男が入館していたらしい。特殊部隊が取り押さえたって」
「え?でも入館していただけじゃ、逮捕できないでしょう?」
「それが稲嶺司令誘拐に関わった男らしい。警察に引き渡されたよ。」
「へぇぇ。確かにそりゃ捕り物ですね。」

「タカヤ」は納得したように、頷いて見せた。
だが内心は舌を出して笑っている。
まったく図書隊とは、なんて迂闊なんだろう。
鍛えられた防衛員が、館内を常に巡回している。
だが実際、良化隊関係者を2名も内部に入れているじゃないか。

「タカヤ」の本名は、阿部隆也。
三橋とは高校の3年間、野球部でバッテリーを組んだ。
またプライベートでは恋人同士でもある。
だが三橋が母のために良化隊の仕事をすることになった。
その決意を知って、阿部は三橋を助ける道を選んだのだ。

本名を名乗れば、いろいろ身バレする可能性はある。
それでも今時、まともな会社は身分証明が必要で、偽名で採用などしてもらえない。
諦めて覚悟を決めて本名で入社したのだが、ここで1つ幸運が起こった。
すでに同じ「阿部」という男が、後方支援部に配属されていたのだ。
そこで阿部は「じゃあ『タカヤ』って呼んでください」と申し出て、すんなりと受け入れられた。
高谷と当て字を使うのも面白がられて、結果的に後方支援部が身元を隠すことに手を貸している形だ。

「『タカヤ』君、修理の依頼。捕り物で書架が一部破損したらしいんだけど。」
「わかりました。行ってきます。」
阿部は工具箱を取り上げると、身軽に腰を上げた。
戦いはまだ始まったばかり、焦らずのんびりやるだけだ。

【続く】
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