「おおきく振りかぶって」×「図書館戦争」

□第17話「昇任試験」
2ページ/5ページ

「タカヤも昇任試験、受けたら?」
後方支援部の先輩隊員が、そう言った。
だが阿部はあっさりと「オレはいいです」と辞退したのだった。

昇任試験が近づき、図書隊内はにわかに受験モード。
そんなある日、阿部は後方支援部では上官に当たる人物に昇任試験を勧められた。
後方支援部隊員も、図書隊員同様、役職はある。
ちなみに阿部は現在二士、つまり二等図書士である。
同じ年齢の正規の図書隊員は、だいたい1つ上の一等図書士だ。

だが阿部はあっさりとことわった。
理由は簡単、阿部の正体は良化隊員なのだ。
そもそも今、二等図書士の肩書があることにさえ違和感がある。
それに阿部も三橋も4月から良化隊で昇任が内定していた。
彼らがスパイした情報で、確実に検閲での成果が上がったからだ。
単純比較はできないが、彼らの良化隊での肩書は図書なら「正」クラス。
つまり図書隊の同じ年齢のトップ昇任より上なのだ。

それにしても。
阿部は腕組みをしながら、むずかしい顔になった。
すかさず阿部に昇任試験を勧めた先輩隊員が「どうした?」と声をかけてくる。
阿部は慌てて「いえ、何でもないです」と笑顔を作った。
思いもよらない事態に、ここが後方支援部の事務所であることを忘れていた。

阿部は少々迷っていた。
再び図書基地内のあちこちに盗聴器を仕掛け、さまざまな情報を得ている。
その中で気になることがあったのだ。
検閲抗争に関わるようなことではなく、良化隊に報告したところで「放っておけ」と言われそうだ。
実際阿部も「放っておく」が正解ではないかと思っている。

だけど昨日、三橋にそれを伝えた後から阿部は迷い始めた。
三橋はわかりやすく不満そうな顔をしたからだ。
もちろん余計なことをする必要はないと、頭では理解している。
だが完全に割り切れないのだろう。
口では「ほっとけばいいんだよね?」と言いながら、目で訴えてくるのだ。

「タカヤ、そろそろ上がっていいよ。」
気の良い先輩隊員に声をかけられて、阿部は「はい」と答えて立ち上がる。
そして笑いかけてくれる彼の目を見て、微妙な気分になった。
彼は阿部のことを可愛い後輩だと信じてくれているのだろう。
もしもその正体が良化隊員だと知ったら。
それを想像すると、やはり心が痛い。
阿部が迷うのも、三橋が不満そうな顔をするのも、結局理由はそれなのだ。

「ったく、やるしかねーか。」
阿部は図書基地の門を出たところで、小さく呟いた。
ここから先はまったく余計な仕事。
まったく給料外だが、心の痛みは少しだけ軽くなるかもしれない。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ