「おお振り」×「ダイヤのA」

□2年目の夏!その3
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「一緒に行くから」
普段寡黙な男が、頑固に主張する。
沢村は「ハァァ」とため息をつくと「わかった」と頷いた。

沢村が何者かに呼び出され、地下に閉じ込められるという事件が起こった。
携帯電波の電波も届かず、外と連絡も取れないべない最悪の状況。
それでも諦めずにスマホをイジり続け、何とか助けを求めることができた。
だがまさかその相手が三橋だったとは。
沢村は御幸を呼び出したつもりだったのだ。

何とか見つけてもらえた沢村は、その夜寝込んだ。
思いもよらず、身体にはダメージが大きかったのだ。
練習で汗ばんだ身体のまま、ひんやりした地下に長時間閉じ込められたせいだろう。
身体がだるく、熱っぽい。
とにかく詳しい話は明日とされ、沢村は寮のベットに倒れ込んだ。

一度寝て起きれば、体調は戻っていた。
それでも念のためと言われ、病院に連れていかれた。
あちこちいじくり回され、結果は「まったく問題なし」だそうだ。
そして寮に戻ったところで、事情聴取だ。
監督室に呼ばれ、大人たちによってたかって事情を聞かれた。
そして彼らを大いに呆れさせることになった。

知らない女子生徒、おそらく3年生っぽい人物に声をかけられ、地下に行った。
部屋に入れと言われて、その通りにしたらドアが閉められた。
沢村はそれ以上のことを何も答えられなかったのだ。
副部長の高島に「その女子生徒の顔、覚えていないの?」と聞き返された。
だが思い出そうとしても、のっぺらぼうの白い顔になってしまう。
ひたすら首を振る沢村に、コーチの落合と部長の太田が深いため息をついた。

「もう一度、顔を見てもわからないか?」
監督の片岡にそう問われたが、沢村は「すみません」と頭を下げるしかなかった。
そもそも夏の大会が近づいたこの時期に、未だにクラスメイトの顔を覚えきれていないのだ。
一度チラリと見ただけの女子生徒の顔なんて、見分ける自信がない。

すっかり意気消沈した沢村は、部の練習に参加した。
この日は一応、大事を取って、軽く身体を動かすだけにしておけと言われている。
こんなときこそ、がっつりと練習したいのだが。
とにかくすでに練習は始まっている。
邪魔しないように、こっそりと息を潜めるようにグラウンドへ。
だがその意に反して、沢村は部員たちに囲まれることになった。

「大丈夫か?沢村。」
「もうすっかりいいのか?」
「無理するなよ!」
「練習はほどほどにな!」

次々と声をかけてくる部員たちに、沢村はズズッと鼻を啜った。
そしてじんわりと潤む目元を、練習着の袖でグイッと拭う。
何だかんだで、こんなに心配してもらっている。
普段は口が悪い先輩や仲間たちだが、やっぱり心は優しい。

だが感動していられたのは、その日だけだった。
翌日、登校した沢村は、常に誰かと一緒にいることになった。
授業中はともかく、休み時間も教室を移動するときも誰かしら沢村の横にいる。
それは同じクラスの金丸が多かった。
そしてマネージャーの吉川も、よく声をかけてくれる。
おそらく沢村を1人にしないように、配慮してくれているのだろう。

驚いたのは休み時間、席を立った時降谷がついて来たことだ。
廊下の突き当たりのトイレに行くだけなのに。
沢村が文句を言おうとすると「一緒に行くから」と譲らない。
普段寡黙な降谷が自分から喋るのは、かなり珍しいことだ。

沢村は「ハァァ」とため息をつくと「わかった」と頷いた。
少々鬱陶しいが、心配してくれているということなのだろう。
沢村は何とか割り切ると、2人並んで教室を出た。
週末は練習試合、三橋や阿部とまた会える。
思考をそちらに向けることで、何とか気分転換を図ったのだった。
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