「おお振り」×「ダイヤのA」

□2年目の夏!その11
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「じゃあまたね。春乃ちゃん」
「うん。千代ちゃん!」
データを交換すると、篠岡は紙袋を抱えて車に乗り込む。
そして当然のように並んで座る阿部と三橋を見て、深いため息をつくのだった。

予想外のアクシデントがあった、青道遠征。
だが「終わり良ければ全て良し」な雰囲気で、西浦高校は帰りの車に乗り込んでいく。
青道のマネージャー吉川春乃とデータの交換をして、篠岡も乗り込む列に加わった。
だがその横にすっと寄り添ったのは、水谷だった。

「重いだろ?オレが運ぶよ」
「え?いいよ。これくらい」
「いいから持つって」

水谷は半ば強引に篠岡からデータが入った紙袋を受け取った。
そして2人は社内の、通路を挟んで隣同士の席に落ち着いた。
ちなみに篠岡の横には1年生の女子マネージャー、水谷の横には花井が座っている。

「データ交換、大変でしょ。重いし事前のコピーも時間かかるし」
「うん。でも今年はマネージャー2人だからね」
「言ってくれれば、オレも手伝うよ?」
「選手のみんなに雑用なんて。その分練習しないと。」

通路を挟んで他愛のない会話をしていると、阿部と三橋が乗ってきた。
そして開いている席に2人並んで、腰を下ろす。
他の部員たちはその時々で適当な場所に座っている。
隣に座る相手も固定していない。
だが阿部と三橋だけはいつも隣同士だ。

投手と捕手は特別。
それはわかっているつもりだった。
だけど三橋と阿部はどう見ても、その範疇を超えているように見える。
捕手のことはよく「恋女房」などと例えられるが、阿部はまさに世話焼き女房だ。
そして三橋はニコニコとそれを受け入れている。

やっぱり嫉妬しちゃうよなぁ。
篠岡は思わずため息をついていた。
ずっと前から阿部のことが気になっていたのだ。
何気にモテる野球部、阿部のファンも一定数はいる。
篠岡としては、阿部がそういうことに興味を示さないのは嬉しい。
だが三橋に対する異常とも言える過保護っぷりには、嫉妬してしまうのだ。
これはもはやBLの世界だ。
この2人の間に割り込む余地なんて、1ミリもない。

「どうしたの?すっげぇため息」
「そう?ちょっと疲れたかな」
「え?大丈夫?」
「うん。着くまで少し寝るから。ありがとう。」

篠岡はなおも話したそうな水谷との会話を、少々強引に打ち切った。
悪いけど、今は明るく笑えない。
とりあえず少し寝て、そこから先は元気なマネージャーに戻らなければ。
篠岡は畳んだタオルを目の上に乗せて光を遮断すると、静かに目を閉じた。
そして車の揺れに身を任せると、すぐに眠気はやって来た。

一方篠岡に好意を寄せる水谷は、わかりやすく不満気だ。
もっと話したかったのに、残念だ。
だが良くも悪くも前向きは水谷は、すぐに切り替えた。
篠岡が疲れて寝たいなら静かにするべきだと口を噤む。
阿部と三橋がカップルのように寄り添っていることが篠岡を暗くしているとは夢にも思わないのだ。

ちなみに彼らを後ろから見ていた何人かの部員も、秘かにため息をついていた。
水谷、篠岡、そして阿部と三橋。
彼らの微妙な恋愛未満の心の動きに気付いている勘の鋭い者たちだ。

「阿部と三橋はもうほぼカップルだしなぁ。」
「篠岡と水谷がうまくいけば、ハッピーエンドなんだけど。」
「でも水谷じゃなぁ」
ヒソヒソとそんな声が後ろの方で囁かれている。
だが当の4人は気付くことなく、車の揺れに合わせて舟を漕いでいたのだった。
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