「おお振り」×「ダイヤのA」

□2年目の夏!その12
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「あの人、栄純君に、似てる」
三橋はベンチからサードを見ながら、そう思った。
顔や姿形ではなく、豪快な高笑いや雰囲気が似ているように見えたのだ。

青道高校との練習試合の1週間後。
西浦高校は再び東京に遠征していた。
対戦相手は西東京の薬師高校。
青道と同地区で、何度か対戦している。

先発は三橋だった。
試合は5回を終えたところで3対3。
だけど素直に喜んではいられない。
西浦は青道からデータをもらい、それなりに分析して臨んでいる。
だが薬師はおそらくノーデータ、つまり初見だ。
しかもエースの真田はケガか日程の都合なのか、登板しない。
それでもリードさせてくれないのは、さすが甲子園出場校といったところか。

ちなみに三橋は5回で降板し、レフトの守備についた。
6回以降は1年生投手に経験を積ませる。
だがもし打ち込まれることになれば、またマウンドに戻る。
野球は一度引っ込めば、もうその試合には出られないのだ。
まったくそういうところは不便だと思う。

そんな中、三橋の興味を引いたのは薬師高校の三塁手、轟雷市だ。
常に元気よく声を出し、時折「カハハ」と高らかに笑う。
うるさいと言ってしまえばそれまでだが、どこか憎めない
それにピンチの時も動じず声を出し続けて、チームに力を与えている。

「あの人、栄純君に、似てる」
「だよなぁ。元気いっぱいだもんなぁ。」
心の中で言ったつもりが、口に出していたらしい。
だがすぐに田島が答えてくれた。
賛同してもらえたのが嬉しくて、三橋は「ウヒ」と笑った。
田島も二カッと笑う。
2年生になっても、弟気質の2人の会話は微笑ましい。

結局、試合は負けてしまった。
6回以降、西浦は5点の追加点を許した。
必死に追いすがったが、残念ながら2点止まりだ。
それでも収穫がなかったわけではない。
1年生投手は打たれはしたが、大きく崩れることはなかったからだ。
三橋も再登板することはなく、8対5で試合終了だ。

「フワァァ」
試合の後、片づけをしながら、三橋は大きく欠伸をした。
こういう試合展開は苦手だった。
レフトという慣れないポジション。
しかも再登板もあるかもしれないから、緊張は保っている。
正直なところ、三橋にとっては9回を投げ切るよりも疲れる展開だ。

「お前、ちょっと緩んでねぇか?」
不意に苛立ちを含んだ声で話しかけられ、三橋はビクっと緊張した。
恐る恐るそちらを見ると、阿部が険しい顔でこちらを見ている。
三橋は「ゴ、ゴメン」と項垂れた。
試合が終わったとはいえ、まだ球場にいるのに欠伸などしてしまった。
それを咎められていると思ったからだ。

「お前、自覚あるのか?毎晩メールとか電話してんだろ?」
「え、それは」
それは関係ないと思う。
確かに青道の女子生徒とメールしたり、沢村と電話をした。
だがこれは単に試合展開が三橋にとってしんどかっただけのこと。
でも阿部は、寝不足なのではないかと思っているらしい。

「ったく。青道の心配してる場合じゃねーだろ。」
阿部はそう吐き捨てると、さっさと早足で歩き出してしまう。
三橋はその後ろ姿を呆然と見送る。
こちらの言い分を聞こうともしない様子がショックだったのだ。

「阿部!今のはないだろ!」
田島が阿部を怒鳴っていたが、三橋の耳には素通りだ。
思わず目頭が熱くなったが、目に力を込めて涙を堪えた。
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