「おお振り」×「ダイヤのA」

□2年目の夏!その13
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「みゆき、せんぱい!」
寮の部屋のドアがバンと開いたのを聞き、御幸はため息をついた。
ノックもせずにいきなり押し入ってくるのは、青道の部員多しといえどこの男だけなのだ。

「お前、ノックぐらいしろよ。」
御幸は呆れたと言わんばかりに、もう1度深いため息をついた。
実際、御幸自身は沢村の襲来には慣れてしまっており、今さらどうでもよい。
だが後輩たちのことを思えば、沢村にはノックの習慣を身につけて欲しいと思う。

「こ、これ、三橋、から!」
当の沢村は、ノックに関してはまるっとスルーだ。
手にはスマホを握りながら、ゼイゼイと息を切らしている。
どうやら自分の部屋を飛び出して、全力でここまで来たようだ。

「子供かよ」
御幸は思わずツッコミを入れずにはいられない。
廊下を全力疾走とか、お前は何歳だ?と。
だが沢村は息が切れているようで、それ以上言葉が出ない。
御幸は「三橋からのメールだろ」と苦笑しながら、携帯電話の画面を見せた。

「そうそう、それっす!」
「見たよ。そもそも宛先がオレとお前、2人になってるだろ。」
「そう、なんすか?」
「そうなんだよ。よく見ろ。」

軽口を叩いている間に、沢村の呼吸も整ってきたようだ。
御幸は「で?どうする?」と聞いた。
三橋は御幸と沢村に同じメールを送ってきた。
その内容は「あの人がふたりと話したいそうです。大丈夫ですか?」だ。
あの人とはもちろん、あの事件を起こした女子生徒のことだ。

「オレは別にいいっすけど」
「いいのかよ。お前を閉じ込めた犯人だろ?」
「逆にそっちはいいんすか?御幸先輩に片想いしている人でしょう?」
「片想い、ねぇ」

2人は顔を見合せると、黙り込んでしまう。
御幸としては「会いたいような、会いたくないような」という感じだ。
正直なところ、関わり合いたくはない。
だが何の話があるか、聞いてみたい気もするのだ。

「とりあえず、話を聞いてみませんか!?」
沈黙を破ったのは、沢村だった。
明日、投球練習に付き合ってもらえませんか。
そんなノリであっさりと話を聞こうと言い出したのだ。

「わかった。そうするか。」
沢村がその気ならと、御幸も頷く。
そして返事をしようとして、思わず「ハハハ」と苦笑した。
青道の生徒である御幸と沢村が、同じ青道の女子生徒と会う。
その待ち合わせの段取りを、埼玉にいる三橋がするのが妙に滑稽に思えたのだ。

「もしかして、あの人と付き合いたいなんて思ってます?」
突然沢村が、突っかかってきた。
どうやら御幸が笑ったのを誤解したようだ。
御幸は「んなわけあるか」と苦笑しながら、メールの返信を打ち始めた。
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