「おお振り」×「ダイヤのA」

□2年目の夏!その14
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「ど、どした、の?」
三橋は阿部の勢いに驚きながらも、能天気にそう聞いてきた。
その瞬間、ホッとした阿部は思わず三橋に抱きついていた。

「三橋が大変なんだ!」
部活後のコンビニ前で、血相を変えた田島にそう言われた。
だが実際、具体的なことは何もない。
三橋は真っ直ぐ家に帰ったが、具合が悪そうだった。
だから家に着いた頃を見計らって電話をしたが、応答がない。
それだけのことだ。
もしも他の部員の話なら「だから?」と冷やかに聞き返していただろう。

だが三橋のこととなれば、話は別だ。
すぐに三橋に電話をかけてみるが、無機質なアナウンスが聞こえるだけだ。
阿部は舌打ちを1つすると、自転車に飛び乗る。
そして三橋の家まで、全速力でペダルを漕ぎ続けた。

もしかして倒れでもしていたら?
いや、練習後も普通にしていたはずだ。
でも本当に大丈夫かどうか、自信がない。
なぜなら阿部はここ最近、三橋に苛立ち、距離を取っていたからだ。

それは拗ねて、嫉妬しているだけ。
花井はきっぱりとそう言い切った。
そうなのだろうか?
阿部にはよくわからない。
だが今はそんなことはどうでもよかった。
とにかく一刻も早く三橋の様子を確認しなければならない。

阿部は猛然とペダルを漕ぎながら、後悔していた。
三橋が沢村や御幸たちのことを気にかけていたのは、優しさからだ。
それをわかろうとせず、いやわかっていたのに無視した。
三橋の注意が自分以外にも向けられていることが我慢ならなかったのだ。

結果的に三橋から目を背け、だから今日の体調も正確に判断できない。
こんなことでは捕手失格だ。
3年間、三橋に尽くす。
そう決めていたはずなのに。
どうしてつまらないことに囚われ、目を離してしまったのか。

三橋邸に到着すると自転車から飛び降り、そのままの勢いでドアチャイムを鳴らした。
室内の灯りはついているようだし、とりあえず誰かいるのは間違いない。
だが出てくる気配はなかった。
すかさず何度も連打し、最後には「開けろ!」と叫んだ。
見ようによっては、完全にこちらが怪しい。
だけどこのときの阿部には、そんなことを考える余裕はなかった。

ようやく三橋が出てきたときには、心の底からホッとした。
思わず三橋に抱きついてしまったのは、そのせいだ。
最初は驚いた三橋が、抵抗せず身体を預けてくれたのが嬉しい。
こうして阿部と三橋はすれ違いつつあった距離を一気に戻した。

いっそこのまま。
阿部はそっと三橋の頬に触れた。
もっと先に進みたい衝動と、このままではまずいと叫ぶ理性。
葛藤する阿部の耳に「くぅ」と情けなさそうな音が聞こえた。
三橋は申し訳なさそうに「カレー、食べる?」と問う。
空腹だった三橋の腹が鳴ったのだ。
それを理解した阿部は思わず吹き出し、三橋も笑い出した。
阿部は「食う!」と答えて、三橋の身体を離したのだった。

結局田島にまんまと騙されたのだ。
しかも用意周到に、三橋の携帯電話の電源をこっそり切って連絡が取れないようにした。
阿部はそれに気付いたけれど、怒る気にはならなかった。
少々荒っぽい、田島らしいやり方だ。
おかげで目が覚めたし、いつもの2人に戻れた。

だけど絶対に礼は言わない!
阿部は秘かにそう思いながら、三橋家のカレーを堪能した。
相変わらずでっかい寸胴鍋で作られた具がゴロゴロのカレーは美味だった。
かくして2人の距離は元に戻った。
そして西浦高校の部員たちはホッと胸を撫で下ろすことになったのだった。
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