「おお振り」×「ダイヤのA」

□2年目の夏!その15
2ページ/3ページ

「ゴ、ゴメン」
三橋は慌ててあやまった。
そして大急ぎで「栄純、君、おめで、とう!」と付け加えたのだった。

三橋は沢村からのメールを自宅のリビングで受け取った。
今日も両親は帰りが遅い。
このところ2人とも忙しいらしい。
だが1人ではなかった。
阿部と2人で対戦校のデータをチェックしている最中だったのだ。

「だいたいこんな感じだ。試合までにちゃんと頭に入れとけよ。」
阿部が読み上げたのは、夏の一回戦で当たる相手校の打者のデータだった。
三橋は「わかった!がん、ばる!」と気合いを入れる。
正直言って、覚えるのは苦手だ。
実際1年の時には、データ分析は阿部に頼りっきりだった。
だが今は必死に覚えて、それを試合で生かすことを考えている。

「メール、だ!」
着信音に気付いた三橋は、すぐに画面を確認した。
そして沢村からのメールとわかり、即座に開く。
だがすぐに「あ〜」と声を上げた。
メールには文章が何もなく、画像が添付されているだけ。
しかもその画像には×マークがついており、開けない。

未だにガラケーを使う三橋には、理由はすぐにわかった。
スマートフォンから送られた画像は、たまに読めないことがあるのだ。
むずかしいことはわからないが、要はファイルの容量の問題らしい。

「そろそろスマホに変える〜?」
母からそう言われたことはある。
だが三橋は「べつに」とやんわりとことわった。
別に必要性を感じないからだ。
実際西浦高校野球部は、ガラケー率が高い。
青道のように地元を離れているものがいないせいだろう。
家族も友人もすぐ近くにいるから、近況を写真で知らせるような知り合いもほぼいない。
それに野球漬けの日々だから、スマホゲームなどする者も皆無だった。

『ガラケーだと読めねぇのかよ!?』
案の定というべきか、沢村に画像が読めないと電話をかけるとそう言われた。
三橋が答える前に、誰かが『それって常識でしょ?』と答える声が聞こえる。
だけど青道は確かスマホユーザーが多かったはずだ。
沢村が知らなかったとしても、無理はない。

「栄純、君、おめで、とう!」
三橋は電話の向こう側でツッコミを入れられまくる沢村に、そう言った。
先程の会話の内容から、沢村がエースナンバー1をもらったとわかったからだ。
おそらくその記念すべき写真を送ってくれたのだろう。

『何だよ。写真で驚かせたかったのに!』
本気で悔しそうな沢村に、三橋は「ウヒ」と笑った。
三橋は中学からずっとエースナンバーをつけている。
それでも今だに嬉しいのだ。
ましてあの降谷から勝ち取った背番号1は格別に違いない。

「だい、じょぶ!甲子園、で、見るから!」
三橋は元気よくそう告げた。
沢村のエースナンバーは画像じゃなく実物を甲子園で見る。
それは一緒に甲子園に行こうという三橋なりの意思表明だ。
電話の向こうから『だな!絶対行こうな!』と元気な声が返ってきた。

「この夏、青道のエースナンバーは沢村か」
電話を終えると、阿部がそう言った。
三橋は「うん。写真、それ。でも」とたどたどしく説明にかかる。
だが阿部は「聞こえてたから」とやんわりと遮られた。
そう、わざわざ言葉にしなくても、阿部は全部わかってくれる。

「ぜったい行こうな。甲子園に」
阿部は力強く笑うと、左手を上げる。
三橋は「行く!」と答えると、右手を重ねた。
いつもの2人のルーティーン。
この熱を分け合えば、どこまででも行けると信じることができた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ