「おお振り」×「ダイヤのA」

□2年目の夏!その後「初戦突破」
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「何、見てんの?」
食堂の片隅で試合のビデオを見る沢村に、御幸は声をかけた。
そして画面に映る意外な選手を見て「何で?」と問いかけた。

いよいよ夏の大会が始まった。
春とは違う、甲子園に繋がる長い道のりの始まりだ。
しかもその相手は由良総合、監督は元青道の監督だった人物だった。

先発は沢村だった。
エースナンバーを背負った初めての登板だ。
当の沢村は誰が見てもわかるほど、わかりやすく張り切っていた。
それは微笑ましく、だが同時にひどく危なっかしかった。
力が入り過ぎて、空回りするのはないかと。
そしてその予感は的中する。
沢村は力を発揮しきれず、早い段階でリリーフの川上にマウンドを譲ることになった。
それでも終わってみれば、7回コールドで青道は勝利をおさめていた。

沢村はあくまでも前向きだった。
元気よく振る舞い、チームの士気を下げることはしない。
もちろんただ能天気なわけではない。
この結果を冷静に受け止め、次こそはという闘志も充分伝わってきた。

そんな沢村が夜、試合のビデオを見ていた。
先程までは今日の試合のビデオを何回も繰り返し見ていたのだ。
おそらく反省と戒めのためだろう。
だが今見ているのは、まったく違うものだった。

「これ、西浦か?いつの試合だよ?」
「去年の夏の埼玉予選。西浦対桐青です。」
「1年前か。三橋、細っせぇな。今も細いけどこの頃はガリガリじゃん。」
「でも桐青相手に、完投勝利っすよ。」

沢村の声色と表情から、御幸は「なるほど」と頷いた。
青道と西浦はデータを交換しているから、こういう試合の映像もある。
画面の中では1年でエースナンバーを背負い、いきなり初戦で強豪校に投げ勝った三橋がいた。
沢村は今日の自分を比較しているのだろう。
しかも西浦には同レベルの投手はおらず、攻略されたら即試合終了。
この時の三橋にかかる負担は、かなりのものだったはずだ。

「どいつもこいつも、負けたくないヤツばっかっすよ。」
沢村は画面を睨んだまま、そう言った。
御幸は「そうかよ」と苦笑しながら、真剣な横顔を見る。
まったく投手というのは、むずかしい生き物だ。
1年前の他県の試合のビデオでさえ、闘志を燃やすのだから。
だけどその気持ちは、理解できなくもない。
御幸だって、実は負けたくないヤツばかりなのだから。

「そういや西浦も勝ってたぜ?」
「そうなんすか?」
「メールとか来てないのか?」
「あ〜昨日からスマホ、見てないっす。」
「毎日見ろ。着信とメールはチェックしろ!」
「オレらはメールじゃなくてラインっすよ。ガラケーキャップ!」
「うるせえよ!」

揶揄うつもりが、御幸が未だにガラケーでラインを使わないことをいじられた。
何だか少々忌々しいが、まぁ元気なら良しとする。
この夏のエース、沢村が悔いのないピッチングをできるように。
その結果が御幸の最後の夏の成果となる。
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