「おお振り」×「ダイヤのA」

□2年目の夏!その後「青道、決勝戦!」
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「ガン、バレ!」
三橋はテレビの画面に見入りながら、両手を握りしめている。
阿部はその右手を掴んで、その指をそっと開いた。

夏の大会、予選はいよいよ佳境。
西浦高校は何とか勝ち進んでいた。
3年生のいない県立高校の快進撃。
最初はせいぜい「賑やかし」程度の扱いだったが、今や注目校だ。
部員たちも気合いが入り「絶対、甲子園!」と燃えている。

そんな中、阿部はやはり三橋の体調が気になっていた。
全ての試合で、登板しているからだ。
さすがに出ずっぱりの完投は少ない。
1年生投手が先発し、リリーフで出るパターンが多かった。
それでもやはりトーナメントが進むにつれ、消耗しているのがわかる。

それでも何とかベスト4に残った。
そして準決勝は三橋が先発し、9回を投げぬいて勝ち投手になった。
翌日の決勝も先発する。
西浦にはまだ強豪校と勝負できる投手が三橋以外にいないのが実情なのだ。

準決勝が終わった後、阿部は三橋邸に来ていた。
決勝に向けて、対戦相手のチェックだ。
すでにデータは渡しているから、簡単な確認で済む。
それを終わらせた途端、三橋は「青道、見よう!」と言い出した。

そう、西東京大会は今日が決勝なのだ。
試合はすでに終わっているけれど、阿部も三橋も試合だったので結果を知らない。
だがテレビ放送されており、録画しているのだ。
三橋はそれを一緒に見ようというのである。

「ダメだ。今から見たら遅くなるだろ。」
阿部は素っ気なく、三橋の誘いを却下した。
野球の試合は長いのだ。
明日の決勝に備えて、休まなければならないときに見るものではない。

「でも!知り、たい!」
「ネットでチェックしろよ。」
「ちゃんと、見たい!」
「・・・わかった。じゃあ途中は早送りで。」

阿部の妥協案に、三橋は不満そうだ。
だが休まなければいけないのも、事実。
三橋は渋々テレビのスイッチを入れると、試合を再生させる。
そしてすぐにリモコンを操作し、4倍速になった。

決勝戦、青道の相手は稲実こと稲城実業。
先攻は青道、先発は両方ともエースの沢村と成宮。
4倍速でも白熱した試合であることがわかる。
双方のエースが気迫のピッチングを繰り広げ、打線が必死に食い下がっていた。

「知ってるヤツがテレビの中で試合してるって、変な感覚だよな。」
阿部が苦笑すると、三橋もコクコクと頷いた。
何度も話したこともある沢村や御幸をテレビ越しで見るのは、何とも不思議な気分なのだ。
そして8回、試合終盤で通常の再生速度に戻した。
さらに試合が進み、9回表が終わったところで青道が1点リード。
9回裏の稲実の攻撃を抑えれば、青道が甲子園出場を決める。

「ガン、バレ!」
三橋はテレビの画面に見入りながら、両手を握りしめた。
マウンドには、沢村。
途中川上にマウンドを譲りレフトに入ったが、9回に再登板となった。
最後はエースの投球で、終わらせるということだろう。

阿部は三橋の右手を掴んで、その指をそっと開いた。
大事な投手の利き腕、万が一にもケガでもしたら困る。
すると三橋は驚いたように、阿部を見る。
だがすぐに「ウヒ」と笑うと、阿部の手を握った。
そして阿部に寄り添うように身体をよせると、再び画面に見入った。

何だよ。ったく。
阿部は頬を赤くしながら、平静をよそおった。
こんなことでドキドキするなんて、子供みたいだと思う。
だけどこの手のことには慣れておらず、免疫がないのだ。

『試合終了〜!』
やがて試合が終わり、実況アナウンサーが試合の終了を告げる。
三橋は「終わ、た!」と声を上げ、2人は食い入るよう画面を凝視していた。
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