「おお振り」×「ダイヤのA」

□2年目の夏!その後「西浦、決勝戦!」
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「レン!ガンバレ!負けるなぁぁ!」
沢村はすっかり興奮状態で、なりふり構わず声を張った。
そして隣に座っていた御幸は、思わず耳をふさいだのだった。

埼玉県予選決勝、ARC学園高校対西浦高校。
御幸と沢村はこの試合を観戦するために、わざわざ埼玉まで来ていた。
折しも東東京も同じタイミングで決勝戦だ。
だからチームメイトの多くはそちらを見に行っている。
でも御幸と沢村はこっちの試合を選んだ。
練習試合を通じて友人になった西浦高校の戦いを見たかったからだ。

ARC学園高校は埼玉の実力校だ。
高校野球通を集めて「埼玉はどこが一番強い?」と聞けば、ほぼ全員が「ARC」と答えるだろう。
西東京で例えるなら、青道や稲実クラスと言える。

西浦高校が決勝に進むと予想した者は、ほぼいないだろう。
野球部は始動2年目、つまり3年生がいない。
しかも県立高校なので、設備や支援も私立の強豪校には遠く及ばない。
そんな学校が何と甲子園まであと1歩というところまで来たのだ。

「そういや、2人きりで観戦って初めてっすね!」
球場に着き、席に座るなり、沢村はそう言った。
御幸は「確かに」と頷く。
球場で一緒に試合を見る時は誰かしら他の部員もいた。
むしろぞろぞろと大人数で見ていることの方が多い。

「デートみたいだな。」
御幸が軽口を叩くと、沢村は真っ赤になった。
そして「で、でーと?」と口をパクパクさせている。
どうやら言い返したいけれど、言葉が出て来ないらしい。
御幸はニヤニヤ笑いながら、球場内を見回した。

球場の雰囲気は東京とさほど変わらない。
両校の生徒や応援団、家族。
そして高校野球のファンたちの熱気が、試合前から球場に満ちている。

高校野球ファンで圧倒的に多いのは、オジサンたちだ。
御幸は自分たちの後ろに座っているオジサンたちの会話に聞き耳を立てた。
おそらく埼玉に関しては、御幸よりは情報を持っているだろう。

「やっぱり何だかんだ言ってもARCだろう!」
「いやいや西浦だって侮れないぞ?」
「だよなぁ。マグレじゃ決勝までは来られないよ。」
「オレは西浦を応援するぞ。やっぱりその方が面白いもんなぁ」
「そうだな。オレも!」

オジサンたちの会話を聞いた御幸は、微妙な気分になった。
西浦を応援してくれるのは、友人として嬉しい。
だが青道高校は西浦よりARCに近いのだ。
県立高校と対戦して相手が善戦すると、球場全体がアウェー状態になったりする。
それはやはりやりにくいものであり、アンチ強豪な雰囲気には素直に頷けない。

そして始まった決勝戦。
最初は緊迫した投手戦から始まった。
三橋は最初からフルスロットルで、埼玉ナンバーワン打線に全力投球だ。
それを見た沢村は「スゲェ。三橋」と興奮している。
だが同時に「大丈夫かな」と呟いた。

「ああ。そうだな。」
御幸は頷きながら、マウンドの三橋を見ていた。
三橋は準決勝も完投していたはずだ。
そしてその翌日、先発。
おそらく三橋が打線につかまった瞬間、この試合は終わる。
しかもその打線は渾身の全力投球をしなければ太刀打ちできない相手。
つまり圧倒的に西浦高校は不利だった。

先取点は4回、ARCだった。
打順が一巡し、目も慣れてきたのだろう。
ヒットを3本打たれ、2点取られた。
それでもそこで踏ん張り、何とか後続を切った。
それでもその後も幾度となく打たれ、点を取られていく。

「ここも何とか押さえたな」
「レン!ガンバレ!負けるなぁぁ!」
沢村がいきなり大声を出したので、御幸は驚き、耳をふさいだ。
そして「いきなりデケェ声を出すな!」と怒る。
ただでさえ地声がデカい沢村に声を張られれば、それはもううるさい。

だがそのとき御幸は、マウンドの三橋と目が合った気がした。
もしかして沢村の声が聞こえたのか?
いや、気のせいかもしれない。
この満員の球場で特定の誰かを捜し当てるのはむずかしいだろう。

「頑張れ!一緒に甲子園に行くぞ!」
その後も三橋は必死に投げ続け、バックは懸命に盛り立てる。
そして御幸もいつの間にか声援を送っていた。
もう自分たちの立ち位置など、どうでも良い。
今はただ西浦高校によるジャイアントキリングを見たいと切望していたのだ。
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