「おお振り」×「ダイヤのA」

□2年目の夏!その後「それぞれの甲子園」
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「ガンガン打たせていきますんで!バックのみなさん、よろしくお願いしやす!」
マウンドで沢村が声を張っている。
三橋は思わず「いいなぁ」と呟いた。

2年目の夏、青道高校は予選を勝ち抜き、甲子園出場を決めた。
だが西浦高校は予選決勝で敗退。
たった1勝の違いは大きい。
青道ナインは試合前のノックを受けている。
だが西浦はこうしてスタンドで観戦だ。

「去年、も、来た、ね。」
三橋はポツリとそう呟いた。
そう、昨年もこうして観戦しに来たのだ。
それは監督である百枝の指導の一環だ。
甲子園を生で見た方が、実際に戦うイメージが湧きやすいのだと。

「すっげぇ、甲子園だぁ。」
「こんな感じなんだなぁ。」
「カレーと焼きそばのにおいがする!」
「あとちょっと、酒くさくねぇ?」

初めて甲子園に来た1年生たちははしゃいでいる。
三橋も阿部も他の2年生も、そんな彼らを見て懐かしいと思った。
そう、彼らも昨年、1年の時は無邪気でいられた。
単純に雰囲気を楽しみ、憧れ、そしてここで試合をするのだと心に誓った

だけどその1年後、まだここにいる。
そのことが悔しくてたまらなかった。
まだ終わっていない。
今度こそ負けないと思う。
だけどチャンスは無限にあるわけではない。
高校野球の時間は本当に短いのだ。

やがて試合開始の時間になった。
対戦する両校の選手が、本塁前に整列した。
主審の合図の後、両校の選手が頭を下げながら挨拶する。
実は三橋は秘かにどうして普通に挨拶をしないのだろうと思っている。
なぜならどの学校も「した!」と叫んでいるようにしか聞こえないのだ。
結局誰にも言ったことがないのは、わざわざネタにするほどの話ではない気がするからだ。

グラウンドでは、裏攻撃の青道高校が守備についた。
先発は背番号1、沢村栄純だ。
自信にあふれた笑みを浮かべた沢村は、マウンドで大きく深呼吸をする。
そしてバックの方を振り返ると、声を張った。

「ガンガン打たせていきますんで!バックのみなさん、よろしくお願いしやす!」
東京ではすっかりおなじみの沢村のルーティーン。
名門校のエースナンバーを背負った甲子園という大舞台のマウンド。
だが沢村はまったく動じる様子を見せずに立っている。

「いいなぁ」
三橋が思わずポツリと呟く。
誰にも聞こえていないと思われたそれは、隣の阿部には聞こえた。
だが阿部は「羨ましがってんなよ?」と声をかける。
三橋は「うん!」と頷いた途端、お腹がキュウと音を立てた。

「お腹、へったかも」
三橋は照れ隠しにそう言いながら、マウンドの沢村を見た。
決して遠い場所じゃない。
次こそ勝って絶対に行くのだと、三橋は改めて決意していた。
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