愛してる5題

□彼女はとても美しいひとでした
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彼女はとても美しいひとでした。
10年前、高野に告白する女子生徒のことを、兄は確かそう言っていた。
でも実際は全然美人じゃないと、律は心の中で悪態をついた。

高野の疑いは、もはや確信に変わっていた。
10年前に突然姿を消した恋人、織田律。
愛らしかった少年は、美しい青年へと変貌していた。
そして再会して約1年、2人は再び恋人になった。。。はずだった。

最初は微かな違和感だった。
例えば昔読んだ本の話。
高校のときは確か自分には合わないと言っていた本をわざわざ図書館から借りていた。
しかもその本をすごく面白いと言い、わざわざ書店で買い直したのだ。
年齢と共に嗜好が変化したのかもしれないが、それにしても変わり過ぎだ。

その他にも小さな食い違いはあった。
例えば高校の頃は几帳面だった印象だが、今は部屋が慢性的に散らかっていることとか。
高校生にしてファーストフードやレトルト食品はほぼ未経験だったのに、今はコンビニ弁当一辺倒とか。
何よりも素直で健気だった性格は、なかなかどうしてひねくれている。

それでも高野は時間のせいだと思った。
高野だってこの10年の間にいろいろな事があったし、変わった部分もあるだろう。
それに律を忘れたことはなかったが、一途に想い続けたとも言えない。
律にだけ変わらないでいて欲しいと思うのは、我儘な話だ。
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