狂宴舞踏会

□狂乱の宴
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「うわ!ビックリした!」
背後からそっと腕を引かれた木佐は、思わず声を上げてしまった。

木佐はいつもの飲み会より多めに酒を飲み、酔っていた。
別にただ単にハメを外したという訳ではない。
とにかく不安だったのだ。
元々招待された時点で、嫌な予感がしていたのだ。
案の定というべきか、来てみると雰囲気はかなり悪い。
うまく言えないけれど、何だか庶民を見下すようなにおいがする。
居心地の悪さをごまかすように、木佐は酒を飲んだ。

ありがたいことに、不安がる木佐を心配した雪名がアンサンブルの助っ人にまぎれこんでいる。
少々酔っても、雪名がちゃんと家に連れ帰ってくれるだろう。
それに酔っているが、普通に歩けるし、呂律もちゃんと回っている。
椅子に座り込んで、舟を漕いでいる吉野に比べたら、全然マシだ。

本当にこれでいいのだろうか。
木佐は酔いが回った頭で、そう考えた
律は婚約披露という晴れの舞台だというのに、見たこともないほど険しい顔をしている。
手の女の子は、何だか今にも泣き出しそうだ。
とてもこの2人が幸せになるようには見えない。

「うわ!ビックリした!」
背後からそっと腕を引かれた木佐は、思わず声を上げてしまった。
慌てて周囲を見回したが、幸いホール中央ではダンスが盛り上がっており、誰も木佐の声など気にしない。
木佐はホッとため息をつくと「どうした?」と聞いた。
腕を引いたのは、木佐の恋人である雪名だ。
招待客とアンサンブルの助っ人、おそらくパーティ中は会話することもないと思っていたのに。

「ホテルの従業員が騒いでます。」
「何で?」
「爆弾らしきものが見つかったとか、何とか」
「え?」
「だから安全が確認されるまで、俺は木佐さんのそばにいます。」

雪名が決して冗談を言ってるわけではないのは、その真剣な表情からわかる。
だけどどうしても本当のことは思えなかった。
爆弾が見つかった?何でここに?
だが木佐が呆然としている間に、事態は動いた。
警備員のような服を着た数名の場違いな男たちが、ホールに飛び込んできたのだ。

「みなさん、動かないで下さい!」
先頭の男が張り上げた声に、ダンスの音楽も止んだ。
一部の者だけが気付いていた異様な雰囲気が、ついに弾けた瞬間だった。

「木佐さん、俺から離れないで下さい。」
雪名はそう言って、木佐の手を握った。
いつもなら「人前でやめろ」と言うところだが、木佐は何も言わずに雪名の手を握り返した。
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