「アイシールド21」×「弱虫ペダル」

□「アイシールド21」×「弱虫ペダル」
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ヒーメ、ヒメ、好き、好き、大好き〜♪
聞こえてくる歌声に、セナは思わず「アニソン?」と呟いていた。

クリスマスボウルが終わり、年が明け、小早川セナは2年生になった。
そしてヒル魔たち3年生は、引退した。
泥門高校の部活は、3年の夏までという決まりだからだ。
それならば春季大会までは出られるが、彼らはそれをしなかった。
クリスマスボウルのためには、1、2年生による早めのチーム作り。
そのために早々に去ることを決断したのだ。

セナにはその潔さが美しいと思うが、同時に恨めしい。
新主将に任命されたセナは、今までヒル魔がやっていたことを全部やることになったからだ。
単にフィールドでリーダーシップを取るだけでなく、雑用も多い。
忙しくて、目が回りそうだ。

だが引退した元主将兼恋人のヒル魔は、実は意外に面倒見がよかったりする。
練習メニューなどでは相談に乗ってくれるし、行き届かないところはさり気なく手を貸してくれるのだ。
主将としてこれでいいのかと悩んだりもしたが、セナは開き直った。
元々セナは自分が主将をやるようなタイプではないと、よくわかっている。
だから変な意地を張るよりも、チームが円滑に回った方がいいと割り切った。

そして春季大会が終わり、もうすぐ夏休みになる。
もちろんクリスマスボウルに向けて、合宿だ。
去年のような「デスマーチ」は、さすがにもうできない。
だがそれに匹敵するほどの強度を持ったメニューを考えなければいけないのだが。

サイクル。。。何ですって?
セナはヒル魔に告げられた耳慣れない名前に、首を傾げた。
サイクル?自転車?
いったいそれがアメフトとどう関係があるのか?

今回、アメフト部は夏に2回の合宿をすることにしている。
まずは体力づくりなど、基礎力を上げるために5日ほど。
その後は何日か学校で通常の練習をこなしてから、第2回目の合宿だ。
今度は実戦を多く取り入れた、応用編だ。
その合間に練習試合などもこなし、まさにアメフト漬けの夏になる。

学校での練習を終えた、セナはヒル魔のマンションに直行した。
2年生になってから、土曜日の夜はほぼ毎日ヒル魔のマンションに泊まる。
アメフト部の話をしたり、勉強を見てもらったり。
もちろん恋人同士の甘い時間もある。
そして告げられたのは、初回合宿の場所だった。

サイクルスポーツパーク。自転車競技用の施設だ。
ヒル魔はそう告げると、セナに紙の冊子を差し出した。
件の施設のパンフレットだ。
それを受け取ったセナは、それを見て首を傾げる。
ここ最近ブームになっている、自転車のテーマパークのような場所だ。
全長5キロの自転車用のサーキット。
その他にもミニコースや屋内コース、アスレチックやフットサル場などがある。

楽しそうな施設ですねぇ。
でもここって遊園地的な感じですけど、合宿なんてできるんですか?
セナは首を傾げて、もっともな疑問を口にした。
パンフレットを見る限り、アミューズメント施設のような気がする。
とても合宿なんて、張れる雰囲気には見えない。

千葉の高校の自転車部がここで合宿を張る期間だけ、貸し切りになる。
だがその学校は外周の5キロコースと一部施設しか使わない。
だから残りの施設は、うちが使わせてもらう。
あと宿もそこと一緒になるからな。

ヒル魔は事もなげにそう告げた。
いったいどこからそんな情報を手に入れ、また割り込ませることに成功したのか。
あの黒い手帳を使ったのだろうか?
だがそれは聞いても答えてもらえないだろうから、別の疑問を口にする。

でもそんなところにお邪魔していいんでしょうか?
小心者を自負するセナにとっては、切実な問いだった。
他校のしかもアメフト部ではない部と一緒に合宿なんて、大丈夫なのかと。
だがヒル魔は「ケケケ」と笑って、それを一蹴した。

そんな施設借り切るには、金がかかるんだ。
それが二校で借りれば金は折半。合理的だろ。
ヒル魔の言葉に、セナも「そうですね」と苦笑した。
主将になって部費を管理するようになったセナには、金の話は説得力がある。

ありがとうございます。いい場所を手配してくださって。
セナは素直に、笑顔でヒル魔に礼を言った。
そしてそれが合図のように抱き潰され、翌日の練習は何でもない振りをするのが大変だった。

そしてついに夏休みに突入し、泥門デビルバッツはサイクルスポーツパークに到着した。
移動手段はもちろん溝六のデコトラだ。
1、2年生部員と、練習用の機材を積んで、運んでくれた。
ヒル魔たち3年生は、最終日に顔を出してくれることになっている。

それじゃ、機材を下ろして、運んで〜!
主将のセナは、他の部員たちに指示をして、必要な荷物を宿舎に運び込む。
宿舎からは賑やかな声がするところを見ると、一緒に合宿を張る学校はすでに到着しているようだ。
これから数日間は同じ宿なのだから、まずはきちんと挨拶をしておくべきだろう。

ちょっと挨拶してくる。
セナは他の2年生に声をかけると、宿舎の中に入った。
向こうの主将さんはどこだろう?とキョロキョロと辺りを見回す。
するとどこからか歌声が聞こえてきて、セナは耳を澄ませた。

ヒーメ、ヒメ、好き、好き、大好き〜♪
聞こえてくる歌声に、セナは思わず「アニソン?」と呟いていた。
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