「世界一初恋」×「黒子のバスケ」

□第3話「宇佐見秋彦、好きなんですか?」
1ページ/2ページ

火神の父親と会った後、黒子の気分は落ち込んだ。
覚悟はしていたが、祝福されない恋愛はやはりつらい。
しかもそれが愛する恋人の肉親なら、なおのことだ。
いっそ別れろと迫られた方がマシだったのかもしれない。
ただ祝福できないと言われて、気まずいまま、火神の父親は帰って行った。

その翌日、黒子はマンションの敷地内の遊歩道を歩いていた。
黒子が住むのは、高所得者向けの高級マンション。
セキュリティがしっかりしており、入居者以外の人間は入れない。
そして敷地内には、フィットネスジムやちょっとした散歩ができる遊歩道があるのだ。
黒子はよく小説のストーリーを考えながら、歩く。
ネタや物語の構成、文章の言い回しなど、ここでの散歩でいいアイディアが浮かぶことが多い。

だが今日は違った。
頭の中で、火神の父親の言葉がグルグルと回っている。
火神には父親の訪問を打ち明けており「気にする必要はない」と言われた。
確かにその通りではある。
火神はバスケファンなら誰もが知るNBAプレイヤー、何をするにも親の了解などいらない。
それでもそう簡単に、親は親と割り切れるものではない。

憂鬱な気分で遊歩道を歩く黒子は、知っている顔を見つけた。
遊歩道内にいくつか設置されているベンチ。
その1つに腰かけて、本を読んでいる青年だ。
彼の名は織田律。
先日、マンション内のフィットネスジムで、挨拶を交わした。
理由は単純明快、このマンションではかなり少数派の日本人であるからだ。

律はじっと本に目を落としたまま、黒子には気づかない。
黒子はゆっくりと律に近づきながら、声をかけようかどうしようかと迷った。
律は本に集中していてこちらに気付いていないし、黒子は現在絶賛落ち込み中だ。
だがやはり数少ない日本人なのだし、スルーするのはあんまりだろう。
黒子は律の前に立つと「こんにちは、織田さん」と声をかけた。

「あ、こんにちは。黒子君。」
律は慌てて顔を上げると、挨拶を返してくれる。
黒子は律が読んでいる本の表紙を、チラリと覗き見た。
直森賞と菊川賞と国際文学賞大賞を受賞した人気作家の本だった。

「宇佐見秋彦、好きなんですか?」
黒子は律が本の作家の名を上げて、そう聞いた。
律は一瞬「え?」と声を上げるが、すぐに「ええ、すごく」と笑う。
黒子はその笑顔につられるように「僕も好きです」と言った。
すると律はふと何かを思いついたような表情で、身を乗り出して来た。

「黒子君、日本語の本って持ってる?」
「・・・ええ。小説なら何冊かあります。僕も本が好きなので。」
「よかったら、貸してもらえないかな?」
律は笑いながらも、どこか切羽詰まったような表情で、そう言った。
黒子はその剣幕に驚き、一瞬首を傾げる。
だが別に貸さない理由もないので「いいですよ」と答えた。

「ありがとう!ずっとマンションにこもっていると、本が読みたくなるんだよね。」
律はそう言って、本当に嬉しそうに笑っている。
だが黒子は、これまた首を傾げてしまう。
マンションにこもらなければならない理由って何だろう?
そういう仕事なのか、何か事情があるのか?

「じゃあうちに来ませんか?好きな本を選んでください。」
黒子はとりあえず、律を自宅に誘った。
火神は今日から遠征なのだ。
1人で憂鬱な気分を持て余すよりは、マシかもしれない。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ