「世界一初恋」×「黒子のバスケ」

□第5話「騙しましたね」
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「嘘だろ、何でこんなところにいるんだ!?」
律は挨拶より先に、思わず大声で叫んでしまう。
だが相手は憮然とした顔で「こっちのセリフだ!」と怒鳴り返してきた。

マンションの外に出た律は、執拗に前後左右を警戒していた。
行く先は300メートル先のコンビニエンスストア。
買い物をして帰って来るのに、おそらく15分もあれば充分なはずだ。
しかもコンビニまでの道は、交通量の多い大通り。
昼間なので、歩いている人だって少なくない。
それでもやはり警戒するのは止められない。
コソコソと気にしながら歩くさまは明らかに挙動不審だが、平静は装えないのだ。

だがエントランスを出て数メートルのところで、律は足を止めた。
そこに立っていた2人の男は、明らかに知り合いだったからだ。
まさか高野を訪ねてきたのだろうか?
律はふとそんなことを思う。
ここは観光地でもないし、かといって仕事で来るような場所でもないからだ。
いや、そもそも見間違い?
その可能性の方が高いと思ったが、それは違うと思い直した。
彼らもまた律の方を見て、驚いた顔をしているからだ。

律は咄嗟にマンションのエントランスに戻ろうとした。
だが男たちは「ちょっと待て、小野寺!」と叫びながら、こちらに走って来る。
まさか律の実家から金をもらって、律の捕獲のために来たのだろうか?
律があれこれ迷ううちに、2人は律の前に立ちはだかるように立った。

「嘘だろ、何でこんなところにいるんだ!?」
律は挨拶より先に、思わず大声で叫んでしまう。
だが相手は憮然とした顔で「こっちのセリフだ!」と怒鳴り返して来た。
その男の名は、丸川書店の暴れグマこと横澤隆史。
そして一緒にいたのは、泣く子も黙るジャプンの編集長、桐嶋禅だったのだ。

「政宗も一緒か?」
横澤はまず高野のことを聞いた。
律は一瞬迷ったものの「はい」と答えた。
横澤の表情からは、不審なものは感じられなかったからだ。
本当に偶然、この場所にやって来たらしい。

「元気でやってるのか?」
今度はずっと黙っていた桐嶋が口を開く。
律と高野は、律の実家から逃げるようにして、慌ただしく日本を飛び出した。
だから丸川書店の面々とは、碌に挨拶もできなかったのだ。
律は申し訳ない気持ちになりながら「何とか生きてます」と答えた。

「お前、ここに住んでいるのか?」
桐嶋がマンションを指さしてそう言ったので、律は「はい」と頷いた。
すると横澤が「ホントか!?」と身を乗り出してくる。
律はその勢いに少々引きながら「本当です」と答える。
すると桐嶋は意外なことを言い出した。

「ここに作家が住んでるんだ。俺たちはその作家のコミカライズ版を依頼しに来た。」
桐嶋の言葉に、律は「やっぱり」と思った。
思い当たる人物は1人しかいない。
律は最近、彼の部屋をたびたび訪問して、本を借りている。
彼の名前を聞いて、どこかで聞いたと思った。
だがしばらくして、出版社勤務の頃に聞いた、ある作家の本名だと思い出したのだ。

「電話で何度かお願いしたんだが、ことわられたんだ。で、こうして訪ねて来たんだが」
「インターホンを押しても、応答がないんだ。留守なのか。居留守なのか」
桐嶋と横澤は、ここへ来た理由を説明してくれる。
律は多分居留守だと思った。
アメリカで暮らしていると、日本にいるときより安全に過敏になる。
ドアモニターで確認して、身に覚えのない人物だったら、出て来ないだろう。

「お前、ここに住んでいるなら、知り合いか?」
すがるように身を乗り出してくる2人に、律は少しだけ迷った。
彼は電話でことわっているそうだし、律がしゃしゃり出るものでもないだろう。
だけど桐嶋たちだって、何としても彼の作品をコミカライズしたいと思っている。
確かに彼から借りた著書は、すごく面白かった。
桐嶋だったら責任もって、面白いコミックスにしてくれるはずだ。

「一応、知ってますけど。」
律は考えた末に、そう答えた。
勝手に紹介などするのは、少々申し訳ない気がする。
だが何よりも律自身、漫画になった彼の作品を読んでみたいと思ったのだ。
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