「世界一初恋」×「黒子のバスケ」

□第9話「泣いてもいいんだぞ」
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多分、怖い気持ちだってあるだろう。
だけど、それ以上に自分らしくありたいと思っているのだ。

黒子と律は、買い物に来ていた。
場所はマンションから車で30分程のショッピングセンターだ。
身1つで日本から出て来た律は、実は生活用品をあまり持っていない。
今日の目的は、これからの季節用の衣類を揃えることだった。

黒子が尾行者を目撃したことは、高野から律に伝えられた。
しばらくはまたマンション内にいた方が安全だ。
高野は律にそう告げて、諌めようとしたという。
だけど律は「生活を変えたくない」と答えた。
そして「もう負けたくない」と言い張ったのだそうだ。

その気持ちは黒子にもよくわかる。
なぜなら火神も、よく黒子の生活に干渉するからだ。
外出先や帰宅時間などを、事細かく聞いてくる。
もちろん黒子の身を案じてのことだ。
日本よりも治安が悪いこの地で、万が一にも黒子が危険な目に合わないようにということだろう。

だけど黒子にしてみれば、少々息苦しいと思っている。
何よりも自分を害するかもしれない者のせいで生活を変えるなんて、忌々しい。
律もきっとそんな気分なのだと思う。
多分、怖い気持ちだってあるだろう。
だけど、それ以上に自分らしくありたいと思っているのだ。

だがすんなりと受け入れられたわけではない。
今日の外出にはもう1人、同行者がいる。
とにかく美人で、不審者が邪な思いを抱きそうな律。
童顔で、見るからに腕力がなさそうな黒子。
この2人を丸腰で歩かせるほど、高野も火神も甘くなかった。
恋人の安全のために、彼らなりに譲れないものがあるのだろう。

「全部、買えた?」
買い物に付き合ってくれた同行者、氷室は優しい声でそう聞いた。
律は「はい、これで全部です。」と答えて、微笑した。
そう、今日の同行者は氷室辰也だ。
今日は火神はチームの練習、高野は仕事があるので、同行できない。
だから火神が兄貴分である氷室に、頼んだのだった。

何か、すごく絵になってる。
黒子は並んで歩く氷室と律を見ながら、そう思う。
氷室も律や高野に負けないほどの美形なのだ。
小さい頃からアメリカ育ちで、高校の一時期は日本にいたが、就職でアメリカに戻った。
だからアメリカには慣れているし、実はケンカ慣れもしている。
火神が信頼をおくほどには、腕っぷしが強いのだ。

「ほんとうにすみません。荷物まで持たせちゃって」
律は申し訳なさそうに、頭を下げる。
買い物はかなりの量で、律だけでなく黒子と氷室まで両手に紙袋を持っていた。
何しろ小さなバック1つでアメリカに来た律は、揃えなければいけないものがたくさんあるのだ。

「お礼に食事を御馳走させてください。」
律は氷室にそう告げると「黒子君もね」と付け加えた。
氷室は笑顔で「じゃあ、御馳走になろうか」と笑った。
黒子はそれを見て、さすがと思う。
変に遠慮したら、律が恐縮してしまう。
それならばありがたく受けた方がいいの思ったのだろう。
もちろんこのショッピングセンターの中のレストランはあまり高くないことも知っていてのことだ。

「じゃあ買ったものは、一度車に入れようか」
氷室はそう言ったので、律も黒子も頷いた。
確かに大荷物を持って、レストランまで移動するのは億劫だ。
ちなみにここへは、氷室が運転する車で来ている。
3人は一度荷物を置くために、パーキングに向かった。

「今のところは、無事みたいだね。」
車のトランクを開けた氷室は、黒子の耳元でそう言った。
黒子は小さく「はい」と答える。
律は2人のやり取りには気づかずに、買ってきたものを積み込んでいた。
どうやら今のところ、尾行者はない。
律も楽しんでいるようだし、今日は大丈夫そうだ。
荷物を積み終わった3人は、ショッピングセンターに戻るために歩き出した。

「律さん!氷室さん!」
最初に異変に気付いたのは、黒子だった。
パーキングの中を、1台のワゴン車がとんでもないスピードで走ってきたのだ。
そしてブレーキ音を軋ませながら、黒子の前に止まる。
黒子の声に反応した氷室が、黒子をかばうように前に立った。
すると車はアクセルをふかして発進するが、すぐにまたブレーキがかかる。
車が止まったのは、律の前だ。

運転席のドアが開き、中の男が律の腕を掴んだ。
黒子を襲うように見せかけて、男の狙いは律だったのだ。
氷室が元バスケ選手の見事なフットワークで駆け寄り、律と男の間に自分の身体を押し込んだ。
そして黒子が男の腕を掴むと、律の手を離させる。
すると男は黒子を突き飛ばすと、車のドアを閉め、車を急発進させた。

「黒子君!大丈夫か!?」
氷室が突き飛ばされて、勢いよく転がった黒子を助け起こす。
そして律は、遠ざかっていく車のテールランプを見ながら、震えていた。
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