「世界一初恋」×「黒子のバスケ」

□第16話「まだ敵がいましたね。」
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「なんか久しぶりの自由って気がします。」
黒子がしみじみとした口調でそう告げる。
律も「その通りだね」と同意した。

黒子と律は2人で、市街地に来ていた。
すっかり仲良くなった2人だが、実は2人きりでの外出は初めてだったりする。
それまで得体のしれない何者かに狙われている可能性があったからだ。
マンションの入り口にボディガードをつけ、外出は必ず誰かと一緒だった。

黒子が誘拐されるという事件があった後も、それは変わらなかった。
外出は相変わらず誰かと一緒だし、ボディガードを置いたままにした。
だが今日、ようやくそれが解除された。
事件解決後、1ヶ月以上何も起こらなかったので、もう大丈夫と判断したのだ。

2人の外出に特に目的はなかった。
強いて言うなら、気分転換だ。
いろいろなショップが並ぶ繁華街を、プラプラと歩く。
ショーウィンドウを見て「綺麗」とか「かわいい」などと言い合いながら、笑う。
そして気に入ったショップがあれば、店内を見て回ったりもする。
本当に他愛もない、学校帰りの女子高生みたいなノリだ。
それでも久しぶりにガードなしで歩くのは楽しかったのだが。

「律さん、帰りましょう」
スポーツショップでジムで使うウェアを見ていた律の耳元で、黒子が囁いた。
律は思わず「うわ!」と声を上げた。
黒子は気配がないので、いきなり至近距離に立っていたことに驚いたのだ。

「何かあった?」
「ボクたち、尾行されてます。」
「へ?」
いつになく緊迫した声をあげる黒子に、律は間の抜けた声を上げた。

「今もこの店の外にいます。ずっとついて来るから偶然じゃないと思います。」
黒子はなおも冷静に、そう続けた。
律はようやく黒子の言っている意味を理解し、楽しい気分が吹き飛んだ。
そして黒子は目で示した方角を見る。
アジア系であろう若い男が、チラチラをこちらをうかがっていた。

「別に犯人がいたってこと?」
「わかりません。」
「どっちを狙ってるの?」
「それもわかりません。」
「まさか俺の実家が」
「落ち着いて下さい。何もわからないんです。とにかく帰りましょう。」

取り乱す律を、黒子はそう諭した。
その落ち着きぶりを見て、律は正気に返ることができた。
相手の正体がどうこうより、今は無事に切り抜けるのが先だ。

「一応、警察にも電話しましょうか」
黒子は気のない声で、そう言った。
はっきり言って、黒子の気のせいかもしれないといえる状況なのだ。
警察が動いてくれるかどうかは、微妙だ。

「タクシー拾って乗っちゃえばいいよ。」
「大丈夫でしょうか?」
「何のための格闘術と銃の練習だよ。」

律は元気よくそう言い放って、先に立って店を出た。
黒子の方が冷静だとはわかっているが、律は強気だった。
怯えて引きこもっているのは、もう嫌だ。
だからこそ自分の力で、この場を乗り切りたかった。

だがその判断は間違っていた。
店を出て、タクシーを拾うために大きな通りに向かう。
その途中で先程の男が、律の行く手を阻むように立ちはだかったのだ。
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