「おお振り」×「ダイヤのA」

□再会!その3
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久し振りだな。
その声はあまりにも小さくて、よく聞き取れなかった。
だけど御幸は何となく察して「本当にお久しぶりです」と答えた。

御幸一也は自分のチームの試合前の球場で、かつてのチームメイトと再会した。
彼の名は、滝川・クリス・優。
高校時代、同じ野球部で1年先輩だった男だ。
今では御幸がプロで、クリスは大学生、立場が逆転している。
それでも御幸にとって、クリスは尊敬する捕手だ。

クリスはこうしてたまに、ふらりと御幸に会いに来てくれる。
そして立ち話のような軽いノリで、近況報告などをするのだ。
最初はそんな状況に慣れず、戸惑っていた。
なぜならケガさえなければ、クリスの方が先にプロ入りしていたに違いないからだ。
それでも何度か訪ねてきてくれるうちに、すっかり慣れた。

降谷も沢村も、プロ志望らしいな。
クリスは相変わらずの小さな声で、そう言った。
2人は試合前の球場の客席に並んで座りながら、話をしていた。
一応チケットを持った客は、試合の2時間前に入れることになっている。
試合前の練習から見たいコアなファンが、チラチラと客席を埋めていた。

そうらしいっすね。
御幸はそう答えて、苦笑した。
2人がプロ志望届を出したことは、知っている。
それに御幸の所属する球団は、降谷の獲得に動いているのだ。
もっともそれは球団内の機密事項、例えクリスといえども話せないのだが。

御幸は球団が降谷を獲ろうとしていることを概ね嬉しく、少しだけ残念に思っていた。
元々かなりの才能を秘めていた降谷は、順調に実力をつけている。
またあの球を受けてみたいと思う気持ちは、嘘じゃない。
だけどそれ以上に、また沢村のことが気になっている。
学生時代、そしてプロを通じて、御幸が組んだ投手の中で一番面白いのが沢村だ。
あのボールを受けたい。
こうして離れている間に、どれだけ成長したのか確かめたかった。

だけどそれは無理な相談だ。
御幸の所属するチームは昨年、左投手の補強で榛名元希を獲得している。
今年はおそらく、左投手は獲らないだろう。
こうなるともうよほどのことがない限り、沢村とまたバッテリーを組む可能性はない。

この前、西浦の阿部が連絡してきたぞ。
クリスが御幸の感傷を断ち切るように、そう言った。
阿部は「マジすか?」と苦笑する。
クリスと阿部、意外な組み合わせではあるが、あり得ないことはない。
練習試合で青道に来た時、阿部はクリスと話をしていた。
クリスは子供の頃から才能あふれる捕手として、関東の野球少年には有名だった。
そんな彼から、いろいろ話を聞きたかったのだろう。

三橋と阿部、同じ大学に進むつもりだそうだ。
クリスの言葉に、御幸は「なるほど」と答えた。
あの2人なら同じところに進んでも納得できる、むしろ離れることを想像できなかった。

ちょっとうらやましいかな。
御幸はふとそんなことを思いながら、こっそりとため息をついた。
そしてあの2人の活躍も、またこの目で見たいものだと思った。
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