「おお振り」×「ダイヤのA」

□再会!その5
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「お前は、やればできるんだよ。」
阿部はいつものセリフを繰り返す。
それは三橋のモチベーションを上げようとしてくれているのだとわかっている。
だけど今の三橋にとっては、ただただプレッシャーだった。

「阿部、君、話、が、ある。」
季節に秋の気配が見え始めた頃、三橋は阿部にそう告げた。
いつもの通り、三橋邸で勉強を始めようとしていた時のこと。
三橋は意を決して、話を切り出したのだ。

「オレ、受ける、学部、変えよう、かと、思う。」
三橋は断固とした口調で、そう言った。
阿部は「は?」と怒りを込めた口調で聞き返す。
実はこの話をしたのは、初めてではない。
だがあくまで冗談めかしての言葉であり、真剣に口にしたのは初めてだ。

六大学のどこかを目指す阿部と三橋の志望学部は、経営学部だ。
阿部はいずれ父の会社を継ぐつもりだし、三橋は祖父が理事を務める三星学園で働くつもりだ。
だからそのために役に立つ学部と思った。
でもそれでは、三橋の学力ではまだ苦しい。
それならもっと合格点の低い学部、もしくは2部と呼ばれる夜間の学部にするのもありだ。
だがそれを聞いた阿部は、露骨に顔をしかめて、反対の意を示した。

「お前は、やればできるんだよ。」
「でも、成績、上がって、ない」
阿部の言葉に、三橋はすかさず反論した。
三橋はこと野球に関しては、ちゃんと記憶ができる。
例えば過去に対戦した打者にどういう配球をして、打たれたとか、打ち取ったとか。
そういう情報は、きちんと脳内で整理されているのだから、記憶力はいいはず。
阿部はそれをもって「やればできる」といつも励ましてくれる。

だけど三橋は、そう言われるたびにつらかったのだ。
頑張って合格するしかない、逃げ道を塞がれているような気になるのだ。
三橋だって、別に逃げるつもりはない。
だけど合格率は今のところ10パーセント弱なのだ。
安全な滑り止めだって、用意しておきたい。

「三橋、わかってるか?目先の合格のために学部を落としたら、将来は」
「将来、より、野球、できる、4年、を。大事、に、したい!」
阿部が怒りを抑えて、穏やかに話しかけてくれる。
だけど三橋は思わず、声を荒げてしまっていた。
それだけ追い詰められていたのだ。

阿部は大学卒業後のことまで考えて、今頑張れと言う。
だが三橋はそんな先のことより、まずは目の前のことしか考えられなかった。
卒業したらもう野球をすることはないと思えば、なおのことだ。

「オレ、絶対、合格、したい、のに」
三橋はつらい心中を吐露する。
その心中を察してくれたらしい阿部は「そうだよな」と言ってくれた。
だが泣き言を言ったところで、問題は何1つ解決しないのだ。
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