「おお振り」×「ダイヤのA」

□熱戦!その2
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「ど、どう、しよ!」
三橋はオロオロと狼狽えた。
阿部も呆然と『どうしようったって』と呟いたまま、続く言葉が見つからなかった。

その知らせは唐突だった。
三橋の将来を揺るがすような、大ニュース。
それは三橋本人でなく、大学へと知らされた。
三橋はそれを大学の野球部のグラウンドで、監督から聞かされたのだった。

4年生は就職活動のため、ほぼ全員が3年の秋から4年の春で部を引退している。
阿部もまた然りだ。
だが祖父の学校に就職する三橋はその限りではない。
だからずっと部の練習には参加していたのだ。
この日も下級生たちのなかに、4年生1人だ。

その知らせを聞かされた時、三橋は呆然とした。
あまりにも現実味のない話だったからだ。
監督もそんな三橋の気持ちがよくわかったのだろう。
三橋の肩をポンと叩いて「大事なことだ。よく考えろ」と言ってくれた。

「あ、あ、阿部、阿部、君!」
三橋は練習が終わるなり、阿部に電話をかけた。
興奮してしまい、思い切り声が上ずってしまう。
電話の向こうの阿部が『落ち着け、バカ!』と声を張り上げたほどだ。

『で、何があったんだ?』
怒声で三橋を落ち着かせた後、阿部は心配そうな口調に変わった。
大学生になり、成人を過ぎた三橋は、昔より落ち着き、吃音も減った。
そんな三橋がここまでドモるのも珍しい。

「プロ、野球、から、お、おふぁ、が!」
『おふぁ?』
「ドラフト、指名、する、て!!」
『マジか!?』

現在、ドラフト会議で指名されたいなら、事前にプロ志望届が必要になる。
そして三橋は、それを出していた。
それは大学の野球部の監督に勧められてのことだった。

「三橋みたいなタイプの投手は、案外プロでいい線、行くんじゃないか?」
そう言われたのは、4年の夏だ。
三橋はきっぱりと「無理、です」と答えていた。
だが監督は「ダメ元で出してみろ」と言う。
監督は選手時代捕手であり、1年の時から三橋の投球スタイルを認めていたのだ。
あまりに強く勧めるから、三橋は冗談のようなつもりで、プロ志望届を提出していた。

「は、8位、指名、だって」
三橋の言葉に、阿部はまぁ妥当かと思う。
大学リーグでまぁまぁの成績を残したが、注目選手と言うわけでもない。
上位指名でないのも、道理だ。

「ど、どう、しよ!」
三橋はオロオロと狼狽えた。
阿部も呆然と『どうしようったって』と呟いたまま、続く言葉が見つからなかった。
そして少しの間の後『親は、何だって?』と聞き返す。

「親、にも、これから、電話、する。また、夜、電話、する。」
三橋はそう言って、電話を切った。
電話の向こうの阿部は、親より先に知らせてくれたことに喜ぶ余裕さえなかった。

とにかく、予想外の一大事。
三橋と阿部の未来は、大きく変わり始めていた。
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