「黒子のバスケ」×「図書館戦争」

□第7話「イーグルアイ」
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「黒子先生、どうですか?」
郁は憂鬱な気持ちを隠すこともできず、口調に滲ませながらそう聞いた。
問われた黒子はあっさりと「無理ですね」と答えたのだった。

昨日、深夜から明け方にかけて検閲があった。
指定された本は、実に50冊。
ジャンルも小説から雑誌、専門書など多岐にわたり、さらに開始時間直前に代執行が届いた。
これでは対象図書を全て地下書庫に格納する余裕がない。
堂上はそれを「下手な鉄砲もかず撃ちゃ当たる戦法だな」と評した。
図書隊が全て集めるのがむずかしいなら、良化隊も全て回収するのは大変だ。
つまり全部は無理でも、1冊でも多く回収すればいいという作戦なのだろう。

堂上班は図書館の正面玄関近くの東側に配置された。
ここからは正面玄関と、いくつかの非常口が見渡せる。
とにかく図書館内に入れてはいけない。
だが万が一入られてしまった場合は、機動力に優れた堂上班が追うことになる。
そのための配置だったのだが。

『伊月一士より玄田隊長へ。東側の非常口から良化隊員が侵入!少なくても2名は入られてます!』
正面玄関前で激しく攻防していたところ、無線からその報告が聞こえた。
郁は思わず「まさか!」と叫んでしまう。
東側の非常口は、郁たちからも見えていた。
だけど良化隊員の侵入など、全然気が付かなかった。
見間違いじゃないのかと思った郁は、手塚と共に半信半疑のまま図書館に突入する。
だが館内には本当に2名の良化隊員が突入していた。

「伊月一士、よく気が付いたな。」
抗争後の後片付けをしながら、堂上は伊月に声をかけた。
伊月は「目くらましをしてましたけど、そういうの見破るのは得意分野なので」と苦笑する。
良化隊は発砲のタイミングをずらしたり、オーバーなアクションで人目を引いたりした。
そうして侵入すると決めた非常口から、注意を逸らしたのだ。

入られてしまった分、館内は悲惨なことになっていた。
良化隊員が乱射した銃で、一棚分の小説およそ100冊が床に落とされていた。
その半分くらいが何らかの破損をしており、修繕または買い替えが必要だ。
だが侵入してすぐに気付けたから、この程度の被害で済んだとも言える。
対象の図書は盗まれずに済んだし、破損した本も買い替えが可能なものばかりだ。

片づけと並行して、夜勤の後方支援部の隊員たちが本のチェックに取りかかっていた。
書架に戻す本、修理に回す本、そして修復不能の本に分けていく。
さらに修理に回す本の中でも、すぐにできそうなものと時間がかかるものを識別する。
とにかく開館時間までに1冊でも多くの本を整えるのだ。

その中には黒子の姿もあった。
本を1冊1冊丁寧に拾い上げながら、仕分けしていく。
郁はそんな黒子を見かけると「黒子先生、どうですか?」と声をかけた。
聞いてもどうにもならないし、黒子の作業を遮ることになる。
だがどうしても気になったのだ。

「厳しいですね。開館時間までに全部元通りにするのはむずかしいです。」
黒子がそう答えると「ハァァ」という息遣いが聞こえた。
それは郁の近くで片づけをしていた手塚だった。
たまたま郁と黒子の会話を聞きつけ、思わずため息をついたのだ。

「何とかならないんですか?せっかく侵入は最低限で切り抜けたのに」
手塚はひとりごととも愚痴ともつかない口調で、そう言った。
その言葉に深い意味はなかった。
今回の戦闘は激しかったし、夜通しの攻防はきつかった。
だからせめて何事もなく、開館を迎えて欲しかっただけのことだ。

だが次の瞬間、黒子は手塚の襟首をつかんで捩り上げていた。
郁や近くにいた堂上班の面々、何よりも当の手塚がまったく気づかない早業だ。
手塚が事態を把握し口を開く前に、黒子は「ふざけるな!」と声を荒げていた。

「何が最低限だ!特殊部隊がこれだけいるのに館内に侵入されてる時点でダメだろう!」
いつももの静かで、同期や年下にまで丁寧な言葉使いの黒子の豹変に、郁は呆然とする。
手塚も他の特殊部隊の面々も驚き、そして黒子の言葉が胸に刺さった。
確かに館内に侵入されている時点で、問題なのだ。

「黒子。それくらいで許してくれよ。」
割って入って、黒子を宥めたのは伊月だった。
黒子は「失礼しました」と頭を下げると、また本のチェック作業に戻っていく。
それ以降の片づけ作業は、まるで通夜のように静かで重苦しかった。
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