自由3題
□玩具だった
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「よくもやってくれましたね」
高野は目の前の女性、母親の琴子を睨みつけた。
琴子はその怒りの視線を、ふてぶてしい表情で受け止めている。
高野政宗は琴子の経営する弁護士事務所に来ていた。
ここに来るのは初めてのことだ。
来ることになるとは思っていなかったし、そもそも会うつもりもなかった。
だがそんなことは言っていられない。
琴子が恋人の律に別れるように迫ったなどと聞かされれば。
「貴方が俺に関心を持つなんて、思ってもみませんでしたよ。」
「関心なんかないわ。」
エメラルド編集部の面々なら震え上がりそうな表情の高野。
だが琴子は恐れる様子もなく、素っ気ない。
「そうでした。俺に関しては完全に育児放棄でしたね。」
「ええ」
「金だけ渡して、それ以外は親らしいことは何もせず」
「そうね」
「こんなときだけ俺の恋人を脅迫とは。本当に貴方らしいです。」
高野は大げさにため息をつく。
琴子は「フン」とつまらなそうに鼻を鳴らした。
まったく弁護士らしからぬ態度に、高野は笑ってしまう。
いくら来客ではないとはいえ、茶の1杯も出てこない。
会社帰りの遅い時間ではあるが、事務員らしき人影はあるのに。
本当に歓迎されていないのだと痛感してしまう。
だがもうそんなことでいちいち傷ついたり、怒ったりしない。
「まぁ貴方に愛情なんか注がれなくて幸せです。貴方のお子さんに同情しますよ。」
「ちょっと。喧嘩を売りに来たわけ?」
「いいえ」
少しだけ琴子を怒らせたところで、高野は本題に入ることにした。
こっちだって余計なことに時間を使いたくない。