自由3題

□自由って何?
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「それはまた、随分と綺麗な想像ですね。」
目の前の秀麗な青年は冷ややかに告げる。
吉野はその表情に、浮かれていた気持ちが一気に冷えていくのを感じた。

吉野は、小野寺律とその恋人の母親らしき女性との会話を偶然耳にした。
それは決して他言していいような内容ではない。
だが吉野は、沈黙を守れなかった。。
恋人であり、担当編集の羽鳥に話してしまっただけではない。
アイディアに詰まってしまい、次回入稿分のネタにしようとまで考えている。

だがそれはさすがに、罪悪感はある。
だからこうして羽鳥に頼んで、時間を取ってもらったのだ。
吉野と律は、丸川書店の会議室で向かい合っていた。
この場をセッティングした羽鳥は、吉野の横に座っている。

「すみません。小野寺さん。俺。。。」
吉野はおもむろにそう切り出した。
そのままあの日聞いてしまったこと、そしてそれを羽鳥に話したことを打ち明けた。
律は普段と変わらない穏やかな表情で相槌を打っている。
どうやら怒っていないと、吉野はホッとしていた。

「俺、実は感動したんです。小野寺さんの恋ってまさに純愛だと思って。」
「純愛?」
「ええ。妨害されても恋人との愛を貫くって、素敵です!」
「それはまた、随分と綺麗な想像ですね。」

浮かれて、思わず出てきた正直な感想に、律の表情は強張った。
そして冷ややかな声でそう告げたのだ。
今までの有効な雰囲気が嘘のような豹変だった。

どうやら気分を害してしまったらしい。
吉野はオロオロと動揺しながら、次の言葉が発せられずにいた。
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