生きる5題+

□体を流れる真っ赤なモノ
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「病気のこと、セナのご両親に聞いたの。」
姉崎まもりは隣を歩く男に、そっと告げた。
だが男は「そうか」と短く答え、それ以上は何も言わなかった。

まもりは帰宅する途中だった。
遅くまで練習した後、今まではモン太が家まで送るのが習慣だった。
以前はセナが送っていたが、まもりと2人になりたいモン太に譲ったらしい。
だがここ最近は、それをヒル魔がしていた。
それは数日前に起こったある事件のためだ。

「セナをアメフト部から辞めさせて、治療に専念させるように説得してって頼まれたわ。」
まもりは並んで歩くヒル魔に、さらに話し続ける。
密かに想いを寄せるヒル魔と、2人並んで歩けるのは嬉しい。
だが弟のように大事に思う少年のことを考えると、どうしても気が重くなる。

「セナとは話したわ。私もご両親と同じ気持ちだった。」
「セナはまだ1年生。来年もチャンスがあるけど、病気は待ってくれない。」
「でも、セナは頑として、聞き入れてくれなかったの。」
「ヒル魔くんに見出してもらった足だから。一緒に戦えないなんて意味がないって。」
「絶対に、ヒル魔くんや栗田くんや武蔵くんと一緒に行くって。」
「そのためなら来年がなくてもいいって。性別が変わってもいいって。」

まもりは返事がない相手に、一方的に話し続けた。
だがヒル魔は決してまもりを無視しているわけではない。
言ってもどうしようもないことを、わざわざ口にしないだけなのだ。
ここまでの付き合いで、まもりもこの謎多き男の性格がかなりわかっていた。

「セナのために何かしたい。でも私ができることは何もないの。」
まもりの声が微かに震えた。
涙が溢れそうになるのを堪えているからだ。
だがそのことにもヒル魔は何も言わない。
気づかない振りをしてくれているのだ。

「だからヒル魔くん、セナをよろしくね。助けてあげて。」
「できる限りのことはする。」
いつも寡黙なヒル魔が、最後だけは雄弁に言い切った。
まもりはその言葉に、ようやく少しだけ笑うことができた。

まもりにとって、クリスマスボウルも恋も大切なものだ。
だがそれをもたらしてくれたセナは、それ以上に大切なのだ。
だからこの恋が実らなくても、セナが幸せなら諦められる。
こうして一緒に帰ったことも、いつかいい思い出になるだろう。
そしてヒル魔には、絶対にセナを幸せにしてもらわなければ困る。

花嫁の父ってこういう気持ちなのかしら。
まもりはヒル魔の涼しげな横顔を見ながら、苦笑するしかなかった。
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