生きる5題+
□安心する
1ページ/7ページ
「あれ?十文字くん」
昼休み、部室に向かおうとしていた栗田は、後輩の姿を見つけた。
彼は同じラインマンであり、栗田にとっては頼りになる相棒だ。
「1人?珍しいね。」
何となく元気がなさそうに見える十文字に、栗田の声も気づかわしげなものになった。
十文字に精彩を欠いている理由は見当がつく。
三兄弟長男と言われ、いつも次男、三男と呼ばれる2人と行動を共にしている。
2人の弟分は、十文字の様子がおかしいことに気づいているのだ。
そして彼らはそれをおとなしく見守るような性格ではない。
何があったのかと容赦なく追及してくる。
それが鬱陶しくなって、1人になれる場所を捜していたのだろう。
十文字が元気がない理由は、もちろんセナだ。
「セナくん、今は1人なの?」
「黒木たちが一緒だから」
ヒル魔は十文字に、休み時間などはなるべくセナと一緒にいるようにと頼んでいた。
だが十文字だって、気を抜きたくなる瞬間はあるだろう。
「行くトコないなら、部室に来ない?」
「部室、すか」
「ヒル魔も武蔵もいるよ。セナくんの話は教室じゃできないからね。」
十文字は迷っているようだ。
行く場所はないけれど、ヒル魔や武蔵とは会いたくないのだろう。
何故なら十文字は、セナのことを恋愛対象として好きなのだから。
同じようにセナを想うヒル魔と武蔵は恋敵なのだ。
その瞬間、どこかから叫ぶような声が聞こえた。
「十文字くん、今の声」
「セナの声っすね。」
十文字にも聞こえたようだ。
2人のラインマンは声がした方向へと走り出した。