「アイシールド21」×「弱虫ペダル」

□「アイシールド21」×「弱虫ペダル」
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ヒーメ、ヒメ、好き、好き、大好き〜♪
坂道は無意識のうちに歌を口ずさみながら、廊下に出た。

昨年度、インターハイで総合優勝を果たした総北高校は、再び頂点を目指す。
その前に避けて通れないのが、夏合宿だ。
昨年と同じサイクルスポーツパーク。
4日間で1000キロ走破が、課せられたノルマだ。

小野田坂道は、宿舎に飛び込むなり、大急ぎで着替え始めた。
他の部員たちはもうとっくに走り始めている。
途中までは一緒に、バスで来た。
だけどどうしてもバス酔いが酷く、途中下車したのだ。
そして後から来る寒咲のワゴンに拾ってもらい、合宿場所に到着した。
また今年も出遅れている。急がなくては。

ヒーメ、ヒメ、好き、好き、大好き〜♪
坂道は無意識のうちに歌を口ずさみながら、廊下に出た。
厳しい合宿になることはわかっているけれど、自転車に乗れることは楽しい。
だが軽い足取りで廊下を進んでいた途中で「うひゃああ!」と声を上げてしまった。
見たこともない少年が「あのぉ」と言いながら、声をかけてきたからだ。

ど、どうしたの?何かトラブル?
坂道は思わず声を上げてしまった。
他の高校が今回、一緒に合宿を張ることは聞かされていた。
だがこのとき、坂道の頭の中からは完全に抜け落ちていた。
だから立っていた少年は、総北の1年生だと思ったのだ。
あろうことか坂道は、未だに新入生全員の顔を覚えられないでいたのだ。

トラブルではないんですか。。。
少年は言葉と反して、困ったような顔をしている。
坂道はどうしたものかとオロオロと挙動不審になった。
1年生なら自分がリードしなきゃいけないと思うのだが、彼の名前さえ分からない。
ただジタバタと「えーと」とか「その」と繰り返すものの、言葉にならない。

あの。そ、総北高校の方ですよね?
少年が動揺する坂道につられるように、かすかに引き気味になりながら聞いてきた。
坂道は思わず「へ?」と声を上げる。
そこでようやく何か誤解をしていることに気付いた。

ここで一緒に合宿をする泥門高校アメフト部主将の小早川瀬那です。
そちらの主将さんに、ご挨拶したいんですが。
主将らしからぬ童顔な少年が礼儀正しく頭を下げるのを見て、坂道も慌てて「どうも」と頭を下げる。
ここで悪循環が始まった。

坂道もセナも、昨年優勝して全国の高校の頂点に立ったくせに、無駄に腰が低いのだ。
相手に頭を下げられると、それ以上に頭を下げる。
そのせいでしばし、意味のないペコペコ合戦になった。
お互いに「どうも」「いえこちらこそ」と、とにかく頭を下げまくる。
だれも見ている者がいない分、シュールな光景だ。

そ、それで、主将さんは?
先に我に返ったのは、セナの方だった。
坂道は慌てて「あ、すみません。今、練習中で、ちょっと」と答えた。
主将の手嶋は、今頃もう走り始めているだろう。
他の部員のことに気を配りながらの、1000キロ走破は過酷だ。
迂闊に中断させていいものかどうかは、躊躇われる。

お急ぎの用事でしたら、呼びますけれど。
結局無難な答えを口にした坂道に、セナは「さすがに練習中はお邪魔ですね」と苦笑する。
そして「夜にでもご挨拶させてくださいとお伝えください」と頭を下げると、また悪循環のペコペコ合戦だ。
しばらくそれをした後、またしても先に我に返ったのはセナだった。

あの、お名前を聞いてもいいですか?
セナがそう告げると、坂道は「ボ、ボクのですか!?」と聞き返す。
だがすぐに他に誰もいないことに気付き「小野田坂道です」と告げた。
セナは「合宿期間中、よろしくお願いします」と告げ、立ち去ろうとする。
だが数歩歩いたところで、足を止めて振り返った。

ボクも好きですよ。
セナは悪戯を白状するように、そう言った。
坂道は「好き?何を、ですか?」と聞き返す。

ラブヒメ。第2期も楽しみですよね。
セナは少し恥ずかしそうにそう言って、小走りで立ち去っていく。
坂道はその後ろ姿を見送りながら「イイ人だぁ〜♪」と笑み崩れた。
ラブヒメファンは坂道の中では、無条件にいい人に分類される。

ボク、練習の前に一緒に合宿する高校の方に声をかけられました。
1日目の走行を終えた坂道は、合宿中の自転車置き場になっている部屋で手嶋に声をかけた。
本当はもっと早くに言いたかったのだが、手嶋は古賀とバトル状態になってしまったので、言えなかった。
それを詫びる前に、手嶋は身を乗り出し「泥門の主将が!?」と叫んだ。

泥門の主将ってアイシールド21だろ!?
急にテンションが上がった手嶋に、坂道は「ハィ〜!?」と声を上げてしまう。
アイシールド21?そんな名前じゃなかったと思うが。

なんや小野田君。アイシールド21、知らんのかいな?
お前、いくら何でも疎すぎるぞ?
鳴子と今泉が冷静にツッコミを入れ、青八木も呆れた顔だ。
坂道だけは何のことかわからず、オロオロと挙動不審になった。

アイシールド21。
坂道がセナの名前の本当の意味を知り、その走りの凄さを知るのは、その夜のことだ。
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