「世界一初恋」×「黒子のバスケ」

□第1話「よろしくお願いします」
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「あれ?もしかして日本の方ですか?」
たまたま隣り合わせた青年は、意外そうな声でそう言った。
黒子は「はい」と答えながら、綺麗な人だなと思った。

黒子テツヤはアメリカで暮らしている。
理由は簡単、黒子の高校時代のチームメイトでクラスメイトである火神大我のためだ。
火神はバスケの最高峰であるNBAプレーヤー。
当然、生活の拠点もアメリカに置いている。
黒子は表向き、火神のマンションの管理を任されていることになっていた。
遠征などで留守がちな火神の部屋に住み込んで、掃除などの家事をするのだ。

だが実際は違う。
黒子は「まこと・りん」というペンネームで活躍する売れっ子作家だ。
そして火神大我とは同じ男でありながら、恋人同士だったりする。
だからこうして火神と一緒に暮らし、自宅で執筆活動をしている。
実は火神よりも黒子の方が、収入は上だったりする。

黒子は日課であるトレーニングに向かった。
このマンションの中には、住人専用のフィットネスジムがあるのだ。
黒子もかつてはバスケ選手だったが、今はもう辞めている。
だが毎日ジムで適度に、身体を動かすことにしていた。
作家は籠りがちな仕事なので、こうでもしないとどうしても運動不足になる。

準備運動のストレッチ、そしていくつかのマシンを使った後、黒子はエアロバイクに向かった。
バイクを漕ぎながら、今日の分の原稿の内容をイメージする。
そして頭の中でまとめ上げてから部屋に戻り、一気にパソコンを使って書き上げるのだ。
それが黒子のルーティーンだった。

だが今日はちょっとした異変があった。
隣のエアロバイクにまたがった青年が、じっと黒子を見ていたのだ。
黒子は人気作家であり、今や日本中にその名が知れ渡っている。
だが本名も顔写真も一切公開していない。
だから知らない人に凝視される理由など思い当たらなかった。

怪訝に思った黒子は、視線の主を見て、その理由がわかった。
このマンションは、いやそこどころかこの街は、白人もいれば、黒人もいる。
だが黄色人種、つまりアジア系の人間は黒子たち以外はほぼゼロなのだ。
でもこの視線の主は明らかにアジア系だった。

「あれ?もしかして日本の方ですか?」
たまたま隣り合わせた青年は、意外そうな声でそう言った。
黒子は「はい」と答えながら、綺麗な人だなと思った。
茶色の髪と緑色の瞳だから、ハーフなのかもしれない。
だが発音はきれいな日本語だった。

「お会いするのは初めてですよね?」
「越して来たばかりなんです。まさか日本の方がいらっしゃるとか思わなかったな。」
黒子の問いに、青年は気さくに応じて微笑した。
すると一見冷たい印象に見える整った美貌が、花が咲いたように明るくなる。
黒子よりは年上だと思うが、可愛らしい表情になった。

それにしてもこの人、平日の昼間にジムなんて、何の仕事をしてるんだろう。
黒子は自分のことを棚に上げて、そんなことを考える。
この時間のジムの利用者は年配の客ばかりなのだ。
今、見回してみても、黒子と同年代の者はこの青年しかいない。

ひょっとしたら小説のモデルになるかもしれない。
黒子は作家らしい好奇心を押し隠しながら「よろしくお願いします」と頭を下げた。
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