「世界一初恋」×「黒子のバスケ」

□第2話「祝福できない」
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「申し訳ないが、私は祝福できない。」
覚悟はしていたけれど、残酷な言葉だ。
黒子は俯いたまま、何も答えることができなかった。

マンション内のフィットネスジムで、小野寺律という青年と知り合った。
その後、自分の部屋に戻ってきてすぐ、思いがけない来客が現れた。
それは一緒に暮らす恋人、火神の父親だった。
火神の父も仕事の関係で、このアメリカに住んでいる。

「突然に来て、悪いね」
「いえ、残念ながら火神君は練習に行っているので、僕しかいないんですが」
黒子は来訪の目的がわからないまま、火神の父を部屋に通した。
もちろん会うのは初めてではない。
渡米して、火神と一緒に住むことになったときに、挨拶をしている。
だがこうして2人きりで向かい合うのは、初めてだった。

初対面のとき、火神の父は黒子にいい印象を持っていなかった。
しかもそれを隠す素振りさえ、見せなかったのだ。
それもそのはず、いきなり2人の関係を打ち明けるのもどうかと思い、同居人だと嘘を言ったのだ。
不在がちの部屋の管理を、高校時代のチームメイトに頼んだのだと。
しかも黒子が人気作家であることも、隠した。
だから火神の父の黒子への第一印象は「いい年齢で定職にもついていない怪しい男」なのだ。

もしかして金が目当てなのではないのか。
部屋の中で、何か盗まれてしまったものはないか。
初対面の後、火神の父はそんな風に何度も息子に警告したそうだ。
そこでやむなく実は黒子が作家であることを打ち明けた。
だがあまり本を読まない火神の父は、それすらも胡散臭く感じたらしい。

黒子は嫌な予感に耐えながら、コーヒーを淹れた。
そして火神の父の前に、カップを置く。
それをしてしまえば、もうすることはない。
黒子は表面上はいつものポーカーフェイスで、でも内心はドキドキしながら、待った。

「黒子君は大我と交際しているのか?」
火神の父は、何の前置きもなく、そう言った。
黒子は一瞬、言葉に詰まる。
2人の関係に気付かれてしまったのだ。でもなぜ。どうして。
心の中で疑念と混乱がグルグルと渦巻く。

だけど黒子は覚悟を決めた。
古風な言い方をすれば、火神と一生添い遂げるつもりでいる。
火神のもっとも近い肉親である父親を騙すようなことはしたくない。
ここでビビっているようでは、火神の恋人である資格はないと思ったのだ。

「火神君が好きです。友情ではなく恋愛という意味で、彼を愛しています。」
黒子は火神の父親の目を真っ直ぐに見据えながら、そう言った。
火神によく似た強い瞳が、挑むように見返してくる。
その視線に含まれる感情は、間違いなく非難だ。
迫力ある眼力に、思わず背を向けて逃げ出したくなった。

火神の父は、黒子の告白に一言だけ感想を述べると、すぐに帰ってしまった。
結局手をつけられることがなかったコーヒーカップだけがテーブルに残されている。
飲まなかったのは、きっと黒子と火神の仲を認めるつもりがないからなのだと思う。

「申し訳ないが、私は祝福できない。」
覚悟はしていたけれど、残酷な言葉だ。
黒子は俯いたまま、何も答えることができなかった。
だが火神と付き合う限りは、浴びせられ続けるであろう言葉なのだ。

【続く】
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