「世界一初恋」×「黒子のバスケ」

□第4話「気をつけろよ」
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「お前の想像、当たっているかもしれねーぞ。」
部屋に戻った火神は、開口一番、そう言った。
同居人であり、恋人である青年は「いきなりなんです?」と眉をひそめた。

火神大我は、この物語の登場人物の中で、一番順当に夢を叶えた男だった。
バスケが大好きで、その才能にも恵まれ、NBAプレイヤーにまで登り詰めた。
今はアメリカの高級マンションで、恋人と暮らしている。
唯一、マイナス要素を捜すとしたら、その恋人が同じ男であるということ。
だが火神本人はまったくそれをマイナスとは思っていない。

今日、チームの練習に参加した後、火神はマンションに戻った。
そして部屋に戻る前に、マンションに併設されたジムを覗いてみる。
恋人である黒子は火神がいないとき、ジムで身体を動かしていることが多いからだ。
だがそこに恋人はおらず、代わりに日本人の青年がランニングマシンを使っていた。

このマンションに暮らす日本人は、つい最近まで4人だった。
火神と黒子、そして火神と同じNBAプレイヤーの青峰大輝とその妻の桃井こと青峰さつき。
そこに黒子が親しくなったという、最近引っ越してきた青年が加わった。
確か名前は、織田律だったか。

「もしかしてアンタ、織田さん?すか?」
ランニングマシンで汗をかいていた青年に、火神は声をかける。
間近で見ていると、ものすごく整った顔をしている。
そういえば確か黒子も「すごく綺麗な人でした」と言っていた。

「織田じゃないけど、織田の同居人。そちらはもしかして黒子君の同居人さん?」
青年はランニングマシンを止めると、火神を見上げて問いかける。
その言葉に、実は火神は少しだけ傷ついた。
日本人でNBAでも通用するプレイヤーは、過去をさかのぼっても決して多くない。
だからどこにいっても、そこそこチヤホヤされるのだ。
バスケを知らない者だって、日本人なら火神と青峰の顔と名前は知っている。
だからまるで知らない一般人のように扱われるのは久し振りであり、地味にショックなのだ。

だが気を取り直して、お互いに名乗ろうとしたとき、ジムの外から悲鳴が聞こえた。
このとき火神は声に驚いたものの、どうせ大した話ではないと思った。
とにかくセキュリティの厳しいマンションで、不審者など入りようがないのだ。
だからふざけて大声を出した程度、悪くてもせいぜい住民同士の軽いケンカだと思った。

だが高野は血相を変えて、ジムを飛び出していった。
まるで自分の知り合いが危険な目にでも遭っているような慌てぶりだ。
それを見た火神は、黒子が織田律に関して抱いた推測を思い出す。

「とにかく外に出たがらないんです。」
黒子は律のことを、そう言った。
仲良くなったので、一緒に外でランチ、またはコーヒーでもと何度か誘った。
だが律は頑として「外に出るのはちょっと」と答えたのだ。
また本好きで、黒子の蔵書をよく借りに来るのも、気になると言う。
こんなマンションに住んでいるのだから、金は持っているはずだ。
それなのに本を買いに出ることも、ネットで買うことさえせずに、黒子の本を借りに来る。
つまり外に出るのを、または宅配の業者など知らない人間と会うのを、極端に嫌がっているのだ。

「もしかして、誰かに命を狙われているとか。」
黒子はそんな律に対して、とんでもない憶測を述べた。
そのとき火神は「そんなわけあるか!」と笑い飛ばし、黒子も「そうですよね」と苦笑した。
だけどあの同居人の青年のあの慌てぶりを見ると、あながちない話でもないのかもしれない。

「気をつけろよ」
火神は黒子に、そう告げた。
織田律とその同居人に、何もないならそれに越したことはない。
だがもしも何かトラブルを抱えているなら、黒子が巻き込まれることが心配だ。
何しろ黒子は火神よりもはるかに、律と親しくしているのだから。

「充分に気をつけます。何かあればすぐ知らせますから。」
黒子は素直にそう告げるが、火神は少しも安心できなかった。
何しろ黒子は、知り合った高校時代から、大人しい顔をしてなかなか無茶をする。
涼しい顔で、腕力で勝ち目のない相手にケンカを売ったりするのだ。

「本当に頼むからな。」
火神は半ば諦めの気分で、ため息まじりに念を押した。
とにかく何も起きないでほしい、いやもう関わらない方がいいのか。

だがこの先、織田律こと小野寺律と黒子は、ますます深く関わることになる。
そしてトラブルに巻き込まれることになるのだが、今はまだ火神も黒子も知る由もなかった。

【続く】
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