「世界一初恋」×「黒子のバスケ」

□第6話「頑張ってみます!」
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「久しぶりだな!」
懐かしい顔の男が、感慨深い声を上げる。
高野は「そうだな」と頷きながら、固い握手を交わした。

「桐嶋さんと横澤さんがうちに来てます!」
律からそんな文面のメールを送られた高野は、大急ぎで自宅に戻った。
はっきり言って、なんでこの2人が来たのかなんて、見当もつかない。
律はメールを送る前に何度も電話をかけてきていたが、仕事中なので出られなかった。
だから仕方なく端的なメールを送ってきたのだろう。
事実だけ聞かされた高野は、とにかく自宅へ急ぐ。
そして自宅のリビングで、のんびりとコーヒーを飲んでいる旧友に再会したのだった。

「黒子君が『まこと・りん』か。」
横澤たちがここへ来た目的を聞いた高野は、なるほどと納得した。
それにしても、恐ろしい偶然ではある。
広いアメリカで、よりにもよって彼らの尋ね人が、高野たちと同じマンションにいたとは。

「で、手ごたえはどうなんだよ」
高野は律が淹れた茶を飲みながら、そう聞いた。
日本にいる頃には、コーヒーを好んで飲んでいた。
だがアメリカに来てからは、自宅では日本茶を好んで飲むようになったのだから不思議なものだ。

「考えておいてくれるそうだ。」
「黒子君、まんざらでもないみたいでしたよ。」
横澤が答えて、律が補足した。
桐嶋が首を傾げながら「そうなのか?」と聞き返す。
確かに初めて黒子と会った桐嶋と横澤は、あの無表情にかなり戸惑うだろう。
だが何度もジムなどで顔を合わせている律には、まぁまぁ前向きに見えたようだ。

「小野寺のおかげで、まこと先生と話せた。本当に助かったよ。」
桐嶋がそう告げると、横澤が「まぁな」と素っ気なくも同意する。
横澤は未だに、律に対してはそんな感じだ。
かつて高野に片想いして、律との仲を邪魔した。
今となっては懐かしくさえある思い出の名残だ。

それから4人は、昔話に花を咲かせた。
と言っても、喋るのはもっぱら高野と横澤だ。
学生時代からの付き合いである彼らは、共通の話題が多いのだ。
仕事の話になれば、桐嶋も加わる。
律はもっぱら聞き役だ。

「ここで俺たちに会ったことは、黙っていてくれないか?」
ひとしきり話した後、桐嶋と横澤が帰る素振りを見せたので、高野はそう言って頭を下げた。
桐嶋は「最初からそのつもりだ」と言い、横澤は「心配するな」と笑う。
彼らは高野たちがどういう経緯で日本から姿を消したか、知っている。
だからこの秘密を守ると、約束してくれたのだ。

「帰国前にまこと先生と食事でもしたい。よかったら小野寺も来てくれ。」
桐嶋は別れ際にそう言って、高野と律は桐嶋、横澤と連絡先を交換する。
こうして束の間の旧友との再会は、終わったのだった。

「食事、行くのか?」
横澤と桐嶋を送り出した後、高野は律にそう聞いた。
律は困ったように笑うだけだ。
だが答えは聞かなくても、わかっている。
律は誘われても、きっと食事には行かないだろう。
以前、親が雇った荒っぽい連中に拉致され、実家で軟禁状態になった。
そのことは未だに律のトラウマになっている。
だから律はずっとこのマンションの敷地内にいて、出ることができないのだ。

「わかってるんです。怯えすぎてるってことは」
律は自嘲気味にため息をついた。
今も律の両親が、律を連れ戻そうとしているのかどうか。
日本から遠く離れたここでは、それがわからない。
でも高野は、その可能性は低いと思っていた。
今さらだと思うし、そもそもこのマンションがバレるとも思えない。
とにかく律がこうして怯えて暮らすのが、いいこととは思えなかった。

「勇気を出して、行ってみたらどうだ?」
高野は律を抱きしめると、耳元でそう告げた。
黒子だけでなく、桐嶋と横澤がいるなら大丈夫だと思う。
とにかく外への第一歩を踏み出せればいい。

「そうですね。いつまでも家に閉じこもってはいられないし。」
高野の腕の中で、律は甘えるようにそう言った。
まるで小さな子供のような頼りなさに、高野は抱く腕に力を込める。
そして「怖いなら、俺もついて行くけど」と付け加えた。
だが律は高野にすがりついたまま、首を振った。

「大丈夫です。頑張ってみます!」
律が高野を見上げながら、きっぱりとそう宣言した。
高野は律の決意を込めた美しい表情に見惚れながら「頑張れ」と告げた。

【続く】
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